第16話 悲しきモブ顔の王子
――朝食をエリスと共に満喫する『シュウ』です。
エリスは自分用のフォークとスプーンを取り出して朝食を食べていた。
僕の知っている限り、この世界の人間はフォークとスプーンは使わない。
昔からフォークとスプーンは存在しているが、フォークは先端が鋭く尖って凶器になりやすく、暗殺の可能性から食事には適さないとの事で使われていない。スプーンは化粧道具、調理用道具として使われ、食事の道具としては使われていない。
「ねぇ、エリスはいつもフォークとスプーンを持ち歩いているの?」
「えぇ、そうよ。手掴みで食べるの嫌なの。国によってはフォークとスプーンが使われていない所もあるでしょ。だから、いつも困らないように持ち歩いているの」
「フォークとか使う国があるの?」
「サスペイン王国では、フォーク、スプーン、ナイフを使うわよ」
――サスペンス王国!? まさか王都はクリフで学校名はシコナフ学園じゃないだろうな…… 逆に読むのが怖い……
何故か2時間で解決する殺人事件の臭いがする。犯人は当然『ヤス』!
「今、ヤス君の事を考えていたでしょ?」
「いや、そんなことなよ」
エリスからツッコミが入った。
「ホントかなぁ」
エリスさんは僕の頭の中がわかるのか!? エリスはクスクスと笑いながら僕の顔を見ていた。
僕もあとで自分用にフォークとスプーン作って貰おうかな。そんな、他愛のない会話を楽しんでいた。
不意にレイニーと目が合った!?
ヤツはゆで卵を一口で丸呑みをし、ニタニタと薄気味悪い笑顔で僕を見ていた……
――テメェーはヘビ女かぁ!
朝食を済ませエリスと別れた。そのあと僕は自室の戻ろうとした時に、後ろからレイニーが近づいてきた。
「お客さん おたのしみでしたね」
「!?……………………」
その一言だけを残し、女子寮に戻っていった。
――この人、どこからそんなネタを仕入れて来てるんだ! まさかのレイニーさんも転生者!?
自室に戻り学院へ行く準備を始めた。
昨日、今日でエリスとの距離は近くなったと思う。最初は僕の秘密がバレて困ったが、今日の様子で僕が転生者として、あまり気にしていない様子だったし、これから仲良くできたらいいなぁー
◇
『コンッ コンッ』
ノックの音が聞こえた。
「おーい、シュウ、そろそろ学校へ行こうぜ」
ダンベルト・アップリオの声だった。
「あぁ、ダンベルかぁ、ちょっと待ってくれ」
彼はダンベルト・アップリオ 通称『ダンベル』。平民出の特待生だ。彼の実家は辺境の街にあり、この寮にお世話になっている。
「おまたせ、待たせて悪いね」
「な~に、いつもの事じゃないか」
「いつも悪い」
「じゃ、行くか」
ダンベルとは同じ寮生として仲良くなり、いつも一緒の学園に通っている。
「今朝見てたぞ、エリスと一緒に朝メシ食べているところ」
見られていたかぁ~ みんなと一緒にご飯食べてりゃ、みんなに見られて当たり前だよな。
「僕たちはそんな仲じゃないぞ! レイニーが僕を待たずに先に朝食食べてて……」
「うん、知ってる。一部始終ずっと見てた!」
「なんだよ、もう~ 最初から見てたのかぁ」
「キミの所のメイドさん、レイニーさんだっけ? いつもは、お前を待ってから朝メシをべるのに、今日はお前を待たず食べ始めたから不思議に思ってたんだよ」
「僕の存在を忘れてたのかも」
「それは無いと思うぞ。レイニーさん、闇のオーラを纏って邪神顔で、お前たち二人をずっと見てたからな」
――邪神顔って、レイニーさん! つ、ついに人間を辞めて闇の世界に落ちたのか!?
「ところでシュウ、筋トレ進んでる?」
「いや、あまり目に見えて効果が無いんだよね」
「まぁ、1、2週間じゃ、効果は見えてこないな。やっぱり、2,3ヶ月掛けないと筋肉は成長しないからな」
「あ~ぁ、サイドチェスト祭があるのに、どうやっても間に合わないのか」
「あと、1ヶ月後にサイドチェスト祭だからな。今から筋トレ、調整が間に合わないのは仕方ないさ」
「なぁダンベル。サイドチェスト祭って何やるんだ?」
「僕は辺境の出だからなぁ~ 一度しか見たことはないけが、一号生、二号生、三号生と分かれて演技をするんだけど、なかなかインパクトだぜ。特にプロテインを使用した三号生は」
「そうなのか、楽しみだな」
「マリーから詳しい連絡が行くと思うが、サイドチェスト祭の打合せを兼ねて、お茶会を開くみたいだぞ」
「ああ、マリーからお茶会の話しは聞いてたよ」
「そうか。聞いてたのなら良かった」
ダンベルと会話をしながら校舎についた。
この学院ではニ号生の夏からプロテインの使用を許可される。一号生は基礎筋肉を学び、身体を鍛える。ニ号生はプロテインを使用して、筋肉の増大に励む、三号生はこの三年間の集大成となり、立派な紳士淑女になるのだ。
教室に入り、授業の準備をしていると、
「よぉ、シュウ。ダンベルから聞いたぞ! エリス嬢と良い仲になってるみたいじゃないか?」
「ビルダー。それは、たまたま一緒にご飯を食べただけで、そんな仲じゃないよ」
「そうなのか、ダンベルのヤツ、ニヤニヤしながら俺には言ってたぞ」
「タンベル。何言ってるンだか……」
「まぁ、仲が良いのは悪い事じゃないさ! エリス嬢を大切にするんだぞ!」
「なんでそうなる!」
「わかった、 わかった」
そう言って、ビルダーは自分の席に帰って行った。
ビルダーは、ビルダー・グランドと言って、名前でもわかるようにポウジン・グランド学院長のお孫さんになる。学院長の孫だからと言って、威張り散らしたりはしない。しかもイケメン公爵令息なのだ。
――僕の周りには顔面指数が高いヤツしか居ないのか!?
僕のモブ顔にとっては辛い現実だ……
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