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自称神様少女と人間事情  作者: 楓二 颯
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第三話 〜神様と神社でよもやま話〜


 やべえヤツだった。

 詐欺なんかじゃなくて、新手の宗教勧誘だったとは…。

 イメージの中の宗教勧誘って、「"とある神様"を信じましょう!」みたいなすでに信仰されている神様を祀るものだと思っていたが、まさか"私が神様"と言い出すとは、完全に死角を突かれた思いだった。

 しかも、質問の答えになってねえぞ。


「あぁーーー。かみさま、カミサマ。神様ね。」

「信じてないでしょ」

「いや、信じてるよーーーもちろん信じてる…。それを踏まえた上で改めて聞くけど、どうして踊ってたんだ?」

「ふうん、やっぱり君は、見る目があるようだね。そうだなーーーここ私の家だし、暇つぶし…みたいな?」


 どうやら僕は、この不思議少女に見る目を買われてしまったらしい。

 ここは神社だし、宗教のジャンルを当てはめるのなら、神道って物だろうか。神道って勧誘したりするイメージが無いのだけれど。だとしたらやっぱり、新興宗教ってヤツなんだろうな。

 一刻も早くこの神社を抜け出さなくては…。


「そのタオルやるからさ、そのまましばらく冷やしておけよ。水筒だけ返してくれればいいから」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 少女は水筒の蓋をきっちり締めると、僕に手渡してくる。


「あー。まあ気を付けろよ。じゃあな」


 僕は返答を聞く前に、鳥居の方向へ体を向け、そそくさと来た道を戻ろうとする。


「待ってよ」


 その曇り声に、僕は少女の方に再び振り向いてしまった。

 見ると、どこかうら寂しい表情をしているが、僕は少し身構えて、なるべく角を立てない声色で、率直に質問を投げる。


「ちなみになんだけどさ、もしかして、宗教の勧誘だったりする…?」

「どういうこと?」

「いやだって、神様がナントカって…」

「神様がナントカ、じゃなくて、私が神様って言ったのよ」


 やっぱりヤバいやつだよな。言い換えても「イタイ子」としか言いようがない。神様って…。脳内CPUの処理が追いついてねえよ。

 このまま神様談義を続けられるのも億劫だったので、僕は少し話題を逸らすことにした。


「神様にも名前ってもんはあるんだろ?何かの縁だし、お前の名前何て言うんだよ」

「ナンパのつもり?それに名前を聞く時は自分から名乗るものでしょ」


 名前のやり取りの際の、古今東西で語り尽くされたマナーを用いて、軽く説教をしてくる少女。

 恩着せがましいのは百も承知だけれど、こいつ、僕への恩義を完全に忘れてるな。


「悪かったよ。僕の名前は風田川(ふたがわ) (つかさ)(しおり)高校に通う二年生だよ」

「つかさ、司ね。なんか中性的な名前してるね」

「そうだな、子供の頃は周りより小さかったし、この名前も相まって、良く女の子と間違われていたよ」

「今じゃ、女子高生のパンツを凝視して覗き見するような、男の子の中でもある意味じゃレベルの高い男の子なのにね」

「この際パンツを見てしまった事は認めるよ、けど凝視はしてない。そこだけはなんとしても撤回してもらうぞ!」

「逆ギレもいいとこだね。まあ、タオルも借りたことだし、お金は請求しないでおいてあげるよ。今回は」


 次回以降は料金が発生するようだ。こうして文にしてしまうと、それはそれで貞操観念が歪んでいる気がしなくもないが。


「それで、お前の名前を教えてもらってないぞ」

「しつこいナンパだなあ、だから彼女の一人もできないんだよ」

「僕のどこを見て彼女がいないと判断したのかは聞かないでおくが、言い掛かりだ」

「だから童貞なのよ」

「童貞なのは今関係ないだろうが!!」


 本日二度目の自供。モテない男の悲しい叫びが、寂れた神社に響いたのであった。

 こいつ、こうなったら何が何でも名前を吐かせるぞーーー。と、僕が新たな決意をしたと同時に彼女の声。


已己巳己(いこみき) 巳己(みみ)

「?」

「私の名前。已己巳己 巳己。歳はーーーそう、あなたと同じ高校二年生」

「へえ、同学年だったんだな。已己巳己…こういっちゃ何だが、変わった名前だよな」

「そうね、この姓の人に会ったことないかも」


 "已己巳己"。地名なのか、将又(はたまた)、専門用語から来る名前なのか、僕には判断しかねるところだったけど、何か物々しい雰囲気を感じさせる名前だった。


「私の名前、珍しいしどこか神様っぽいと思わない?」

「ん、あぁ、まあ不思議な名前ではあるよな」

「ま、なんてことは無いんだけどね。已己巳己って単語としてあるの」


 言って、落ちていた木の枝を使って、少女は地面に自分の名前を書き始める。


「こうして文字で見ると、全部似てる漢字なんだな」

「そう。言葉の意味もそんな感じ。"互いに似ている物"って意味」

「ふうん。まあ、多分一度覚えたら忘れることのない名前ではあるよな」

「ま、そういうことだから。巳己って呼んでね」

「呼んでねって…」


 モテない男子高校生にとっての、女子を名前で呼ぶという大イベントの難易度を、この子は分かっていないのだろう。僕のハジメテを、こんな不思議少女に使うわけにはいかないのだ。


「ん、じゃあ…已己巳己で」

「だめ、已己巳己って可愛くないじゃない。名前呼びが恥ずかしいのなら、"神様"って呼んでくれても良いんだよ」


 そんなところ周りに見られたら、自殺ものである。入信したと思われる訳にはいかない。

 ハジメテと周囲からの目。その二つを天秤に掛ける。


「巳己…さん」

「巳己」

「み、巳己」

「よろしい。私は司って呼ばせてもらう事にするね」

「あーもう好きにしてくれ」


 半ば無理やりハジメテを奪われてしまった僕は、どこか自暴自棄に答える。

 已己巳己…巳己を見ると、何かモジモジしている。


「それで、あの…」

「急になんだよ、改まって」

「ずっと踊ってたからーーーお、お腹が」

「お腹が?」

「すいた…」

「それで、お前ーーー巳己は俺にどうしろっていうんだよ」

「…奢って」

「……はぁ。それじゃあ、行くか。僕もちょうど用があったし」

「行くって?」


「僕の、アルバイト先ーーー喫茶店だよ」


毎週木曜日又は土曜日更新予定です!

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