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precious family

作者: 名日田ひな



僕が2歳のある日、家族が増えた。



毎朝母さんのおはようの声で起きていたけど、今朝は赤ん坊の泣き声で起きた。


父さんは毎日忙しそうで、朝も早いし帰りも遅いから、基本的に母さんが1人で面倒をみている。

正直泣き声はかなりうるさいけど、日向の下で寝ている姿は天使のように可愛い。


最近の父さんは少しピリピリしている。

泣き声がうるさくて眠れていないようだ。

夕飯の時、父さんが「ゆうとを少し静かにさせられないのか」と聞くと

「泣くのがゆうちゃんの仕事なのよ」と母さんは少し怒り気味で言った。



弟がハイハイをするようになってしばらくすると僕を掴みながらつかまり立ちするようになった。

時には転んで大泣きするけど、その成長が嬉しかった。

喋るようになって、歩くようになって、幼稚園に通うようになるまであっというまだった。



母さんに怒られると、弟は僕の後ろに隠れる。

怒鳴り声で僕までビクビクするからやめて欲しいけど、頼られてるみたいで少し誇らしい。



母さんと父さんは毎晩喧嘩している。

知られてないと思ってるけど、おそらく弟も知っている。

ある晩、父さんが母さんを殴った。

次の日もその次の日もそれは日課になった。



弟は高校生になると、家にいることが減ってあまり姿を見なくなった。

父さんと母さんは離婚して、弁護士立ち会いのもと話し合いをした結果、父さんが家を出ていった。



それからの母さんは家事も仕事も忙しそうで、以前まで柔軟剤の良い香りがした部屋の中は、生ゴミの嫌な香りに包まれていた。



弟が社会人になって、家から出ていった。


母さんはひとりぼっちになった。



僕がいても僕は何もしてあげれない。




母さんがどうやらこの家から出ていくみたいだ。

リビングはダンボールだらけで、僕はどうなるんだろう。



久しぶりに部屋の中は柔軟剤の良い香りがする。



「おはよう。今日の天気は?」

数年ぶりに母さんが話しかけてくれた。



「おはようございます。今日は一日晴れです。」

定型文しか話せない自分が情けない。




母さんは「ありがとう」と言った。





「…お役に立てて嬉しいです」


その日、僕は眠りについた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「僕」が再び目覚めた時には、その目に笑顔が写ります様に。
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