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パーティアドバイザー〜そのパーティ追放、本当に正当ですか?その人材を手放す決断はまだ早い〜

「ーーアサグ、今日限りでテメェを俺達のパーティから追放する!」


 噴水が特徴的な広場。

 そこで逆立った髪の毛が特徴的な男が声を荒げていた。


「そ、そんな!」


 その相手である茶髪で覇気の無い男は、心底驚いたという表情をしていた。


「いきなりすぎるよバング!こ、これまで僕達みんなで頑張ってきたじゃないか!」


「アサグ、テメェの役職と俺達のパーティランクを言ってみろ」


「僕は斥候で、ランクはこの前Aになった……」


「そこだ!ランクBから斥候が居るパーティが極端に減る!あのランクSパーティ、解明同盟だって斥候は居ねえ」


「!」


「ランクBになった以上、俺達の目指す先はそいつらだ!お前はここまでなんだよ!実家に帰って、大人しく家業を継いどけ!」


 バングはキッパリとアサグに追放を告げた。その様子を街を行き交う人々は少し眺めた後、すぐに立ち去った。

 迷宮都市マヨーウではこういった出来事は日常茶飯事だった。迷宮攻略の為に複数人が協力し合うパーティ制度が生んだ影。


「ほ、他のみんなは!?みんな僕が要らないって言うのか!?」


「……アサグ、バングの言ってる事は本当よ。高ランクパーティに斥候がほとんど居ないのもそうだし、居たとしても死亡件数が多いの」


「私、アサグ君が死ぬのを見たくないよ……」


「クール、キュート……」


 バングの後ろにいた青髪、赤髪の女二人は、問い詰めるアサグに申し訳無さそうに目線を落とした。

 この場に味方は居ない。三人の論も筋が通っている。アサグの胸中に絶望が湧き出す。

 しかし、それが満たされる事は無かった。


「もう一度言うぜ!テメェはーー」


「その追放、ちょっと待ったっ!」


「!だっ、誰だテメェ!」


 バングの言葉を遮り、その男は現れた。

 真っ黒なスーツに身を包み、同じく黒い髪をした男。

 珍しい髪色以外は特徴の無い男は、名刺をバングへと差し出しながら宣言した。


「俺はフロイデ、パーティアドバイザーだ」




 ☆




「いきなりなんなんだよアンタ!他所の話に首突っ込んできて!」


「まあ落ち着け。だから詫びの意味でこうして夕食を奢っているんだ。少し話をしよう」


 突如現れたパーティアドバイザーを名乗る男、フロイデさんはメニュー表を見ながらそう言った。

 僕達の対面にはバング、クール、キュートの三人が座っている。


「パーティアドバイザー……。聞いた事があるわ。パーティメンバーの協力関係にどこからともなく口を出してくるって」


「やっぱただの不審者じゃねぇか!警備に突き出すべきだろ!」


「私も聞いたことある。不当な追放を止めさせるって」


「不当だあ?」


「その通りだ」


 フロイデさんは相変わらずメニュー表を見ながらそう答えた。

 バングが僕を指差す。


「話聞いてたんなら分かるよなぁ!俺達にもう斥候は要らねえんだ!」


「そこだ」


 突如メニュー表を下ろし、フロイデさんはバングと目を合わせた。


「もう一度、どうして斥候が不要なのか、言ってみてくれ」


「高ランクパーティに斥候は居ねえからだ!」


「どうして?」


「あ?そりゃあ……よ、弱いからだろ!斥候は俺みてえな戦士と違って貧弱だし、クールみてえな魔法も使えねぇ!モンスターが強くなれば、足手まといって事だ!」


「そこだ。そこが間違っている」


 バングが僕にしている通り、フロイデさんはバングに指を向けた。

 その気迫とでも言うべき何かに、バングは思わず身を引いてしまっている。


「高ランクパーティで斥候が居ない理由、その大きな理由は地図だ」


「地図?」


 迷宮には先達がその道を記録し、他のパーティに提供している内部地図がある。


「フロイデさん、地図ならこれまでに僕達も使ってきましたけど……」


「そうだ!それは俺達のランクが上がって、行く迷宮のランクが上がっても変わんねぇ!」


「では聞くが、君達が今まで使ってきた地図の中に、道がそのまま記された精巧な地図はあったかい?」


「無いわ」


「うん。迷宮って定期的に道が変わるからか、地図の偽物が多いし本物でも結構間違ってるよね。そのせいで何回ピンチになったか……」


「それは、意図的にそうしているんだ」


「は!?」


 バングが呆気に取られている。

 そう言う僕も驚いている。地図に間違いがある事が意図的なんて、どういう事だ。


「地図は先に迷宮に挑戦した者達が情報提供をして描かれている事は知っているね。そして、それを高額で販売している事も」


「地図、高いんですよねぇ。……ってまさか」


「そう、地図の描き手達はあえて精巧な道を描かない。そうしないと、一つの迷宮につき一つの地図しか出せなくなるからね」


「何度も同じ迷宮の地図で稼ぐ為に、あえて完璧な地図を出してないって事?でも、そんなの完璧な地図を誰かが出してしまえば破綻するわ」


「地図の販売を取り締まってるのは、君達も良く知る大規模商会、センゲバ商会だ。それも過剰なほど厳しくね。当然密かに地図を売ってるヤツも居るだろうけど、そういうヤツがまともな地図を売ると思うかい?」


「……」


 全員が沈黙した。

 格安の地図、売ります。この言葉の響きに何度騙されてきたか。


「で、でもそれは高ランクパーティだって同じ事だろ」


「それは違う。基本的に、彼らは商会と取引をした上で、完璧な地図を密かに貰ってるんだよ」


「だったら結局、斥候は要らねえじゃねえか!」


「高いよ?」


「はっ?」


「完璧な地図の値段は、正直言ってその地図の迷宮を完全攻略しても取り返せないくらいには高い。しかも、迷宮の難易度が上がるにつれてどんどん上がっていく。斥候が居ないパーティは、どれもお金持ちなのさ」


「……」


「パトロンが付けば話は別だけど、それもコネが無いとね。よほど懐に自信がない限り、完璧な地図を頼りに迷宮攻略をするのは難しい」


 またもや沈黙が続く。

 二週間前、もうすぐでBランクに昇格できるからって、みんなで貯めたお金を解放してはしゃぎ回った事を思い出す。

 僕達は基本金欠だ。


「それと、確かに完璧な地図が有れば斥候の存在理由は減る。道の詳細把握と記憶が要らなくなるからね。でも、その分斥候がやっていた他の仕事も分担しなきゃいけない。斥候が居ないパーティは、結構大変なんだよ」


「……地図の理屈は分かったわ。でも、もう一つ問題がある」


「そうだよ!ランクB以上のパーティの斥候は死亡件数が特に高いって!」


「……!そうだ!死んじまったら元も子もねぇ!」


 もう一つの問題。それは高ランクパーティでの斥候の死亡件数だという。

 迷宮冒険者に死は付き物だ。確かに、僕はバングほど前衛能力は高くないし、クールみたいな魔法も使えない。

 キュートは治癒士だが、治癒士はパーティにおいて不可欠で、要る要らないの話じゃない。


「死亡件数か。君、その情報は確かだね?」


「ええ。迷宮攻略支援窓口に聞いたわ。高ランクパーティで一番死亡件数が多いのが斥候で、次に戦士、魔法使い、治癒士の順だって。そもそも高ランクパーティは全体的に斥候の数が少ないのに、一番多いなんて……」


「オーケー。確かに君の言う通り、斥候の死亡率は高い」


「ならーー」


「でもそれは、高ランクパーティに限った話じゃない」


 フロイデさんはどこからともなく人形を取り出した。

 剣を持った戦士、帽子を被り杖を持った魔法使い、法衣を着た治癒士。


「役職には適性が求められる。戦士は強靭な肉体と膂力を持ち正面からモンスターと殴り合わなければならない。魔法使いは当然魔法が使えないとダメだし、治癒士だってそうだ。でもーー」


 フロイデさんは更に人形を取り出す。

 ナイフを持った斥候。それも一個じゃなく、何個も。


「知ってるかい?斥候希望者は迷宮都市で一番多いんだ。つまり、他の役職と違ってなりやすい」


 フロイデさんは大量の斥候の人形の内、一つを取り出して他の三つの人形と並べた。


「斥候の役割はさっきも言った道の把握と偵察、罠の解除だ。前者は迷宮挑戦者なら誰がやっても一応成立はするし、後者も練習さえすれば出来てしまう。だから」 


 並べられた人形の内、斥候がフロイデさんの指に弾かれ、倒れた。


「基本的な能力の低い者でも成立してしまう、つまり死にやすい。それが斥候だ。パーティに入れてくれって言う斥候の数は多いだろう?それに、偵察と罠の解除はどちらもミスれば死ぬ可能性があるってのもそれを後押ししてる。斥候がミスって死んだ時点で他は大体撤退するから、他職と比べた死亡件数が多くなる」 


「……」


「つまりは高ランクパーティに限った話じゃなく、全体的に斥候の死亡率は高いんだ。高ランクパーティの死亡例も、斥候は実力が足りなくてもある程度無理が効くから……って理由で無茶をしたってのが多い」


「ちょっと待って、能力が低いって……。それじゃあ、アサグは」


「アサグ君を追い出そうとした原因は、現状で彼に感じた実力不足というより偏った情報のせいだろう?なら、Bランクに至るまで、君達に実力不足だと判断される事も死ぬ事も無く辿り着いた。ーーむしろ、アサグ君は斥候としてこの上なく有能だと思うよ」


 フロイデさんは僕を見てそう言った。

 優しく笑いかけるような表情に、思わず涙が滲んだ。


「ほ、本当なのか?」


「うん。俺は今までパーティアドバイザーとして色んなパーティを見てきたけど、斥候の実力に不安を抱いていたパーティは多い。それが無いのであれば、アサグ君がこの先も通用する可能性は高いよ」


「……そう、か」


 これ以上聞く事が無くなったのか、バングは静かになった。

 やがてゆっくりと僕に目を合わせ、口を開いた。


「アサグ、俺はァーー」


「アサグ。了承したのは私達だけど、この事を言い出したのはバングなの。高ランクパーティで斥候が滅多に居ないのと、死亡率が高いのを知って決断したって」


「心配してたんだよ!アサグ君が死んじゃうかもしれないって!死んじゃうくらいなら、四人で入れなくなる方がマシだって!」


「ちょ、お前らっ」


「それを正直に言ったら、多分アサグは止めてくれなかったしね。乱暴な言い方をして、無理矢理止めてもらうって」


「やめろぉ!」


 僕達は今まで仲良くやってきた。その認識だけは正しいと思っていた。

 いきなり追放だなんて言われて、僕自身がそれを疑ってしまった。

 でも、そうじゃなかったんだ。


「……アサグ、さっきの言葉は取り消す。ーーまだ俺達と一緒に、迷宮に挑戦してくれるか?」


 バングが少し不安そうに言った。

 そんなの、決まってる。


「もちろんだよ!もう出て行けって言われたって、意地でも出ていかないからね!」


「言わねえよ。……悪かったな」


「私達も」


「ごめんね」


「良いんだ。みんなが僕の事を考えてくれてたのは、ちゃんと分かったから」


「ーー清々しいまでの円満解決だ。俺の見たかった物を見せてくれて、ありがとう」


 僕の隣に居たフロイデさんがそう言って席を立った。


「ちょ、ちょっと待って!」


「そうだ!礼を言うのはこっちの方だ!つーかまだメシ食ってねえぞ!」


「料理は全て君達へ、礼は今の景色だけで十分さ。じゃあな」


「ちょ、速っ!」


 それを最後に、とんでもないスピードでフロイデさんは店を飛び出していった。


「アサグ!」


「分かってる!せめて言葉だけでもっ!」


 バングにそう答え、僕もフロイデさんを追いかける。

 速い。人混みだってあるのに、少しでもスピードを緩めたら振り切られる。

 僕の体力が限界に達し、人混みが途切れた場所で、フロイデさんは立ち止まり、振り返った。


「ーーやっぱり君は有能さ。だって俺に引き剥がされないんだから」


「はあっ、はあっ。……あなたは、一体」


「パーティアドバイザー。礼なんて本当に要らない。ただ、君達が決断を下すのはまだ早かっただけだ」


「何で、こんな事を」


「……俺も君と同じだったから、かな」


 それだけ言って、フロイデさんは前を向いた。

 次は追いつけない。ならせめて。


「ーーありがとう!」


「……要らないって言ったのに」


 少し嬉しそうに、フロイデさんは消える様に居なくなった。

 みんなと迷宮に挑戦して、攻略する。

 それが今までの目標だった。


「いつか、改めて」


 この日、僕達に新しい目標が出来た。




 ☆




「モブオ、君は今日限りでーー」


 パーティアドバイザーはどこからともなく現れる。

 不当な追放を止める為に。


「ーーその追放、ちょっと待ったっ!」

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