Cafe Shelly アイ・ハブ・ア・ドリーム
「ドリプラをやりたいんだ。力を貸してくれないか」
これが私の人生を大きく変えた第一声であった。
ドリームプラン・プレゼンテーション、通称ドリプラ。話には聞いたことがある。なんでも、ここでプレゼンテーションをした人がすごいことを実現していると聞いている。中でも有名なのが、伝説のホテルをつくった人。その人はホテルマンの経験も知識もないのに。自分がつくりたいホテルに目覚め、それを熱心にプレゼンテーションし。その結果、いろいろな人から支援をもらって実現に結びつけたという。他にもこのドリプラでプレゼンテーションした人がたくさんの夢を実現、もしくはその一歩を踏み出していると聞いている。
そのドリプラのイベントを、この地でやりたいというのが目の前にいる島原社長の思いなのだ。
「ドリプラをやるのに、どうしてもコーチングの力が必要なんだよ。プレゼンターの思いを形にするのに、半年間かけて練りあげていくんだ。それをするのに支援者がプレゼンターを支援するのだけど。ここでコーチングをやって欲しいいんだよ」
私はコーチングの勉強を初めて、そしてこの仕事で食っていこうとしている身。そんな私に声がかかったのは正直嬉しい。
「わかりました。まずはどういうことから始めるのですか?」
私の状況は、コーチングの仕事を初めてそれほど経っていないおかげで時間に余裕がある。あまりありがたいことではないが。
「まずは日程計画をたてて、実行委員を組織して、プレゼンターを募集して…」
島原社長の口からは次々とやるべきことが飛び出してくる。私はそれをメモして整理していく。島原社長の頭の中では、すでにドリプラの構想ができあがっているようだ。
聞けば、今まで世界大会、その他各地のドリプラを見て回ってイメージが出来上がっているようだ。けれど私にはまだそれが見えてこない。とにかく今はこの社長のサポートをする役割に徹してみるか。
そこで、手元の用紙におおまかなスケジュール表を書き出す。そしてまずやることを整理する。
「とにかく会場を抑えよう。今が一月だから、十月くらいに開催することとして…」
会場候補は、この市内でも最大級の集客を誇る文化交流センター。最大千五百人は収容できる。島原社長はここを満員にしようという構想を持っている。
が、正直そんなに集客ができるのか? ここは不安が残る。けれど社長の勢いは止まらない。まずは会場押さえに走ることになった。
「その日ですね。えぇっと…」
早速島原社長と一緒に会場の事務所に行って予約を行おうとしたのだが。
「十月、十一月ともに土曜日はすでに予約が入っていますね。この時期、地元の中学、高校の吹奏楽の定期演奏会が多いですからね」
「じゃぁ、十二月は?」
「うぅん…二十二日なら空いていますが」
「じゃぁ、そこでお願いします」
間髪入れずに決断する島原社長。もうワンランク規模の小さな会場にしようとは思わないところがすごい。会場費だってバカにならないのに。
とりあえず当所の予定から二ヶ月遅れの開催で決定。そこから再度逆算して、六月からプレゼンターの支援会をスタート。そのために四月には説明会を実施することになった。
今は一月、まだまだ時間がある。その間に自分でももう少しドリプラについてイメージを固めないと。
「ヒロキさん、これが成功すればあなたの知名度も上がるはずですよ。コーチングでここまでやれたって実績ができますからね」
私はその言葉を信じることにした。
今はなかなか仕事にならない。ましてや、この地には先輩コーチである羽賀さんがいる。そのため、後発である私には思ったように仕事が降ってこない。何かで実績を挙げないと。
ドリプラの仕事は完全にボランティアだ。労力は持ち出しになる。ここで得られるものとはなんだろう?
私だって暇じゃない。今は仕事を取りに行くこと、そしてもっと有名になること。いつかは先輩コーチである羽賀さんを抜いてやる。それが自分のドリームプランだ。今回はそのチャンスになる。
そう思ってとりかかったこの仕事。まずは四月の説明会にむけての資料作りを開始。島原社長からいろいろな資料をもらい、それをもとに説明会資料を作成する。こういう資料作りはお手のものだ。さんざん研修企画書を書いているからな。
今回、県下三カ所で説明会を行う。説明会の会場押さえもしないと。動けば動くほど仕事が増えてくる。そして告知作業。これが一番困った。今回は自分のフェイスブックや手元のリストに説明会を行うことを告知。島原社長にも同じ文章でメールをばらまくことをお願いした。今の時点ではお金をかけられないから、広告を打つこともできない。果たして何人の人が来てくれるのだろうか?
書類審査をして十人に絞り込む。さらに予選会を行い、本番へは五人に絞り込む。これが今の構想。そのためには二十人以上が説明会に来てくれないと。さて、これからどうなる?
「ヒロキくん、なんだかちょっと疲れていないか?」
毎月行なっている羽賀さん主催のコーチングの勉強会。その席で羽賀さんにそう声をかけられた。
「あ、羽賀さん。わかります?」
「わかるもなにも、いつもは元気いっぱいだったヒロキくんが両肩を落としているからね。何か悩みでもあるのかな?」
「うぅん、悩みってほどじゃないんですけど…」
私はここで羽賀さんにドリプラのことを伝えてみた。別に秘密にしておく必要はない。それどころか、協力してもらいたいくらいだし。
「なるほど。あの島原社長がねぇ。ボクもドリプラについては聞いたことがあるけれど。何か手伝えることはないかな?」
「そうですね。今は説明会の集客をどうすればいいのか。そこで頭を悩ませているもので…」
「だったら遠慮なく、今日ここでみんなに告知してみるといいよ。といっても十人くらいしかいないけど」
「えっ、いいんですか?」
「もちろん」
私は羽賀さんの懐の広さにいつも感心させられる。羽賀さんは人の利益のために動いてくれる人だから。この羽賀さんを抜こうなんて、まだまだ私も甘いよな。そう思いつつも、今回は羽賀さんの好意に甘えさせてもらうことにした。成果が出るといいけど。
コーチングの勉強会でドリプラ説明会の告知。すると思わぬ反応が。
「出場はしないけど、なにか手伝えることがあればやりますよ」
「知り合いに話してみます」
「ちょっと興味あるなぁ」
反応はまちまちだったが、皆さん何かしらの言葉をかけてくれた。こりゃ手応えあるかも。
今回伝えた人たちとはフェイスブックでつながっているので、そこで告知文を出してくれればシェアしてくれるとのこと。これはありがたい。私は早速フェイスブックにドリプラ説明会の告知文を掲載した。前準備がいるから、申し込みをしてくれとお願いしたのだが。きっと当日になって突然来る人もいるだろう。資料は余分に準備しておいた。
そしていよいよドリプラ説明会。一箇所目はなんと十五人も来てくれたじゃないか。これにはびっくり。この中の半分でも申し込みがあればいいな。そして二箇所目は十人程度。まぁそんなもんだろう。最後の三箇所目はここから一番離れたところ。ここは残念ながら声が届かなかったのか、五人にとどまった。しかし合計で三十人なのは満足だ。あとはどれだけ申しこんでくれるか。その中から書類審査で十人に絞らないといけないのだが。期待をして申し込み締め切り日を待つ。
「で、結局八人。ちょっと期待はずれでしたね…」
締め切りの翌日、書類審査を行う予定で島原社長と実行委員会を開いたのだが。フタを開ければ八人しか応募してくれていない。しかも、うち二名は「こりゃどうしたもんかな…」という内容。夢の企画書を出してくれとお願いしたのに、企画書になっていない。さて、どうしようか。
「もう八名全員合格にしましょう」
これが下した結論。最初からちょっと暗礁に乗り上げた気分だ。とにかくこの八名には合格通知をメールと電話で連絡。六月からスタートする支援会に来てくれ、という旨を伝える。
この時点で私の頭の中では計画が狂いだした。というか、ドリプラの成功イメージが湧いてこなくなってきた。島原社長は大丈夫ですよ、と言っていたが。私には不安しか残っていない。なんだろう、この気持は。
その月のコーチング勉強会のとき、お礼を兼ねて状況報告。そして、今の不安な気持ちを打ち明けてみた。
「なるほど、ヒロキくんは今不安な気持ちを抱えているんですね。じゃぁこれからみんなでヒロキくんをコーチングする、というのはどうですか?」
羽賀さんの提案で、コーチング勉強会に参加したみんなが私をコーチングすることに。
「ヒロキさんはドリプラをどんなふうに成功させたいのですか?」
「うぅん、それが見えなくて…」
「今まで開催されたものから何か見えてくるものはありませんか?」
「ビデオじゃイメージがつかみにくくて…」
「ヒロキさんは何を目的としてドリプラの活動をしているのですか?」
「自分の仕事につながると思ってやっているのですが…それって間違いなんでしょうか?」
皆さんの質問は正直なところコーチングになっていない。私の答えはスライドするばかりで、深く掘られることはない。
勉強会に集まっているのは、私と羽賀さんを除いてはコーチングは素人。プロ活動している人はいない。正直、質問には期待していない。羽賀さんは全体のファシリテーターをやるだけで、私に質問をしていない。
こんなやりとりがいくつか続いて、ちょっと行き詰まった感が漂いはじめた。そのとき、羽賀さんが動いた。
「じゃぁ、ボクから一つ質問していいかな?」
「はい、お願いします」
私は期待しながら羽賀さんの質問を待つ。
「ヒロキくん、今楽しい?」
ちょっとびっくりした質問。楽しいか、と言われるとノーと言わざるをえない。すると羽賀さんから次の質問が。
「ヒロキくんが楽しい要素って何?」
「楽しい要素…そうですね、仲間とワイワイやったり。あとは自分が活躍したって感じがすること、かな」
「仲間とワイワイと、活躍したって感じだね。となると、何が必要かな?」
「うぅん、やはり自分の活動を認めてくれる仲間。そこじゃないかな。さすがヒロキさん、なんてこと言われたいですね」
「ははは、それはいいですね。となると、その仲間をどこでみつけましょうか?」
「どこで…」
ここまではさすが羽賀さんという質問で、私の気持を高まらせてくれた。だがいまの質問は考えさせられる。どこで、という以前の問題。
「そうか…私は今まで一人でなんとかしようという気持が強かったんだ。私がやらないといけないっていう責任感を一人でしょってしまって。だから楽しくなかったのか」
羽賀さんはにこやかに笑ってくれている。どうやら羽賀さんもそれが正解だってことに気づいていたんだ。
「でも、どこでっていうのはちょっとイメージつかなくて」
「じゃぁ、とっておきの方法を教えましょうか?」
「ぜひ!」
羽賀さんの提案はぜひ聞いてみたい。
「じゃぁ教えますね。魔法のコーヒー、シェリー・ブレンドに聞いてみませんか?」
シェリー・ブレンド、聞いたことがある。それは飲んだ人が求めているものの味がするという。人によっては求めているものが映像で浮かんでくるとか。そこから問題解決の糸口をつかめるということもあるらしい。私は羽賀さんの提案にすぐに乗ることにした。
早速、明日魔法のコーヒー、シェリー・ブレンドを出してくれる喫茶店、カフェ・シェリーに行く事に。羽賀さんは残念ながら仕事で同席できないとのことだけど。ここのマスターに話しておいてくれるそうだ。とてもありがたい。
翌日、私はいてもたってもいられず午前中のわりと早い時間からこの喫茶店に足を運んだ。
「ここか」
通りはパステル色のタイルで敷き詰められて、その途中に黒板で書かれた看板が置いてある。そこにはこんな言葉が。
「あなたの味方はすぐそばにいますよ」
なんだか意味深な言葉だなぁ。そう思いつつ階段を登る。
カラン・コロン・カラン
扉を開けるとカウベルの音。同時にいらっしゃいませの声。コーヒーと甘いクッキーの香りが私を包み込む。
「あの…コーチングをやっているヒロキといいます」
「あ、羽賀さんから聞いています。どうぞこちらに」
女性店員が私を笑顔でエスコートしてくれる。通されたのはカウンター席。
「いらっしゃいませ」
目の前にはこのお店のマスター。にこやかな笑顔で私を迎え入れてくれた。
「ヒロキさんですね。羽賀さんからお聞きしています。ご注文はシェリー・ブレンドでよろしいですか?」
「はい、お願いします」
あらためて店内を眺める。四つのカウンター席に真ん中に三人がけの丸テーブル席、窓側には半円型のテーブルに四席。十人も入れば満席になるという小さな喫茶店。しかし窮屈な感じはしない。むしろゆとりがあるので空間としてはゆったりとして落ち着く。茶色と白でシンプルにまとめられた内装。こういった落ち着いたところでコーヒーを飲むなんてなかなかないな。
「ヒロキさん、ドリプラをやるんですってね」
女性店員にそう話しかけられた。
「えぇ、ドリプラご存知ですか?」
「はい、私、ドリプラには興味があって。夢を語るっていいですよね」
「えぇ、でも正直舞台裏はしんどくて。今、一人で事務局として動いているような状況なもので。どうやったら仲間と出会えるのか、その答えを見つけたくてやってきました」
「仲間かぁ。きっと見つかりますよ」
女性店員の励ましに、ちょっと気持が高まる。なにしろこの人、美人だからなぁ。
「お待たせしました。シェリー・ブレンドです」
「はい、じゃぁいただきます」
「飲んだら感想を聞かせてくださいね」
私は早速目の前の黒い物体に口をつけた。
コーヒーのいい香りとともに、口の中に広がる苦味。だがそれは不快なものではなく、むしろ温かみを感じてホッと安らぐものである。その後すぐに頭の中に思い浮かんだのは、真っ暗な空間の中に漂う私の姿。周りには何もない。どうして? 仲間づくりを求めてきたのに、なぜ一人なんだ? 私は一人を望んでいたのか?
ひょっとしたらそうなのかもしれない。なんでも自分一人でやってしまおう。そう、自分はスーパーマンのようになんでも片付けてしまおう。そんな願望があったのかもしれない。いや、間違いなくそれがあった。だから人が寄って来なかったのか。
そこまで考えた時に、自然と二口目を口にしていた。すると、一転して明るい場所に出る自分。今度は多くの人の中に飛び込んでいる。そして、みんなと一緒に踊りだす。心も身体も、何かに一つになっていく。それが気持ちいい。
「いかがですか?」
マスターの言葉でハッと我に返る。
「なんだか不思議な光景を目にしました。最初は真っ暗なところに一人で漂って、その次は明るいところでみんなと一つになっていました」
「なるほど、一口目と二口目が違ったのですね。マイ、どう思う?」
マスターは女性店員のマイさんに向かってそう尋ねてみた。
「そうね…ヒロキさん、一つだけ質問していい?」
「はい、なんでしょうか?」
「真っ暗なところで一人だったのと明るいところでみんなといる時。それを思い浮かべた時にどちらかで不快感はあった?」
不快感、そう言われるとないような気がする。どちらも自分が望んでいるもの。それを口にしてみた。
「なるほど。ここからは私の勝手な解釈だけど。真っ暗なところで一人というのは、周りを寄せ付けないイメージだったの。つまり、他の人よりも優れているんだってことを強調したいんじゃないか。けれどたくさんの人の協力も欲しい。これは矛盾したことじゃなくて、両方の性質を持ちたいってことじゃないかな」
「まさにそのとおりです。私、羽賀さんのように優れたコーチになりたいんです。もっと自分がスーパーマンのように活躍したい。けれど一人じゃなく仲間も欲しい。そんな感じです」
マイさんにズバリ言われて、あらためて自分の中にある気持ちに気づいた。
「でも、今はどちらもまだまだできていません。私はこれからどうすればいいでしょうか…」
「どうしたらいいのか、シェリー・ブレンドに聞いてみるといいよ」
マスターは笑いながらそう言う。早速その言葉に従ってみた。
さっきより少し冷めたそれを口にする。そして目をつぶる。すると、目の前にはドリプラの舞台が広がった。
そこにはプレゼンター、観客、そしてスタッフ、多くの笑顔がある。みんなの熱気がムンムン伝わってくる。私はその光景を一歩引いたところから眺めている。
私の立場は、このみんなを舞台裏から盛り上げる役目。自分が主役ではない、主役を盛り上げる演出家のようなもの。ただし、主役は一人ではない。私を除くすべての人達。
そうか、今までは自分を主役にしようとしていたからか。主役はあくまでも目の前の人たち。その人たちが自分の力で、そして周りの力で自分の夢を叶えていく。そこに目覚めさせ、そして手を取り合えるように支えていくのが自分の役割。そして自分の夢。そこにあらためて気づきた。
「わかりました」
私は今感じた光景をマスターとマイさんに話してみた。
「なるほど、それがヒロキさんの夢なんですね」
「はい、そのためにドリプラを成功させること。それが自分の使命だと感じました」
「その夢、とてもステキ。私も応援するね」
がぜんヤル気が湧いてきた。よし、今は集まったプレゼンターのために全力をつくすぞ。
翌日、早速私は島原さんと今後の打ち合わせ。支援会の進め方について話し合った。聞くところによると、支援会の進め方については特に決まったものはないらしい。ここ独自のやり方でいいそうだ。
「じゃぁ、支援会については私が進め方を考えていいってことですね」
「はい、ヒロキさんの思ったようにやってみてください」
そこで思いついた。まず一回目はお互いの紹介も兼ねて、羽賀コーチ直伝の未来トークをやってみよう。未来トークとは、自分がそうなった未来になりきって自分のことを語るというもの。これをやれば盛り上がるはずだ。その上で自分がありたい姿を明確にしていく。
六月、いよいよ支援会がスタート。第一回目は計画通りに進めてみた。ここでプレゼンターも支援者も大いに盛り上がる。よし、これでいけそうだぞ。
そう思った矢先、早速の問題発生。
「申し訳ないのですが、ドリプラの出場を辞退させて頂きます」
いきなり入ったこの連絡。プレゼンターの一人が早くもドロップアウト宣言。
「どうしてですか?」
ついていけないと感じたのか、それともやり方がまずかったのか?
「私、思いつきで応募したのですが…でも、みなさんの夢を聞いていたら、私にはそんな資格がないんじゃないかって思えて…」
これがドロップアウト宣言をした女性の言い分。わからなくはない。この女性、応募した時の内容が今ひとつ曖昧で、書類審査があるとすれば間違い無く落とされていたであろうから。しかし、ここでせっかく芽生えさせた夢をあきらめてもらいたくない。
「それでは、支援者として今後参加してもらえませんか?せっかくみなさんとこうやって知り合えたのですから。一緒にみなさんの夢を手助けする方に回ってみるのもいいかと思いますよ?」
「でも…」
躊躇していた彼女。そうだ、彼女にもシェリー・ブレンドを飲ませてみれば何か変わるかもしれない。いや、彼女だけではない。プレゼンターや支援者、みんなでシェリー・ブレンドを飲んで自分の求めているものを明確にしてみれば。そんなことをひらめいた。
「では、次回の支援会まではぜひおいでください。きっと何かが変わると思いますので」
私の説得に渋々ながらも応じてくれた彼女。私は早速カフェ・シェリーのマスターに相談。
「わかりました。じゃぁ、人数分のシェリー・ブレンドをご用意しますよ」
マスターの計らいで次の支援会でシェリー・ブレンドをみんなに振る舞えることになった。
そして二回目の支援会。スタート前に早速みんなに飲んでもらうことに。そのあと、ワークショップ形式で飲んだ感想をそれぞれ言い合うことに。
「私、ちょっと涙が出ました。昔のことを思い出して」
「ボクは熱い気持ちがこみあげてきたな」
「いやぁ、目指すものを追いかけるっていう気持が大事だね」
口々に感想を言い合う。そして、ドロップアウトした女性はこう口にした。
「なんでもよかったんです、街を元気にさせることができるのなら。今はそのためにこのドリプラを成功させなきゃって気持が湧いてきました。ぜひこれからもお手伝いさせていただきます」
うん、狙い通りだ。今のみんなのこの気持をどう具体化していくのか。それが私の役目。そして私の願い。
二回目の支援会は自分の中の真の思いに気づくことに成功した。あとはこれをどうストーリーにしていくか、だな。
ドリプラのプレゼンテーションは、自分のやりたいことを説明してはいけない。やりたいことが叶った世界を疑似体験してもらう。架空のストーリーが必要となってくる。今度はストーリー作り講座を開かないとな。
そしてストーリー作りに入るプレゼンターたち。しかし、今まで物語なんてつくったことのない人たちばかり。どうしても体験談みたいな感じになってしまう。
「違うんです。未来の、それがもう叶っている世界を描いてみてください」
そう何度も伝えてはいるのだが。
そこで、何度も他のドリプラ大会のビデオを見たり。さらには島原さんが他の大会で知り合ったプレゼンターにお願いをして講座を開いてくれたり。とにかく力を入れてストーリー作りに励んでもらった。
私も個別にコーチングを行い、プレゼンターを支援。アイデアもたくさん出してみた。支援会をやるたびにいろいろと指摘され、プレゼンターは頭の中が白紙に戻る。その繰り返しだ。
気がつけばもう十月半ば。残り二ヶ月を切ったところで、誰一人として出来上がったストーリはない。本当に間に合うのだろうか? これを間に合わせなければ、ドリプラは成立しない。
私は焦りだした。私の力不足でこんな事態に陥っているのではないだろうか。おかげで仕事も手に付かない状態。
私は久しぶりにカフェ・シェリーへと足を運んだ。
「ヒロキさん、お疲れですね」
「えぇ、ドリプラが思うように前に進まなくて…どうしたらいいものか」
「それでまた、シェリー・ブレンドの力を借りに来た、そうですね?」
「ははは、マスターにはもうお分かりですね」
その通り、私はシェリー・ブレンドの力を借りに来た。だがマイさんがこんな一言を私に伝えてくれた。
「ヒロキさん、まだ一人で頑張りすぎじゃないの?」
言われてドキッとした。
前にここで出した結論。それは周りの力を借りること。たくさんの人の協力があって、一つのことが成し遂げられる。そのことは頭ではわかっていたはずなのに。いざ行動を起こしてみると、また全てを自分でやろうとしている。
「マイさんが言われたとおりです。シェリー・ブレンドの力を借りるまでもなかったなぁ。そんな単純なこと、どうして気づかなかったんだろう」
「じゃぁ、どうしますか?」
「素直にヘルプを頼みます。みんなに声をかけてみます」
「どんなふうに?」
「そうですね、私を手伝ってくださいって」
「うん、それでいいんですよ、それで」
このあと飲んだシェリー・ブレンドの味。それは多くの光に包まれた私の姿。私が望んでいる答え、それはたくさんの支援をもらうこと。それってドリプラそのものじゃないか。ドリプラは夢を語ることで、周りの支援をもらうことができる。その支援の力が、夢を実現させる。
夢は決して一人では実現できない。周りの助けが必要。そしてまた、自分も周りを助ける。この相互の力があって、世の中の多くの人の夢が実現できる。
「マスター、マイさん、ありがとう」
「いえいえ、これが私たちができる支援ですから。また悩んだらぜひおいでください」
うん、力が湧いていた。家に帰って早速フェイスブックやDMで自分自身の支援を呼びかけてみた。
「ぜひ実行委員として力を貸してください」
すると、驚いたことにたくさんの人から応援メッセージが。さらに、自分も手伝うよって人が何人も名乗りを上げてくれた。
そうか、たったこれだけのことでいいんだ。手伝って欲しい、支援がほしい、そう伝えればよかったんだ。自分の悪い性格として、なんでも自分一人でやってしまおうということがある。そうじゃない、助けてくれる人はたくさんいるんだから。助けてって声を上げるだけでいいんだ。そのことをあらためて知らされた。
こうして実行委員を再構築し、のこり僅かな期間を再度スタートさせた。ドリプラの成功のために。そして、自分の夢の実現のために。
だが、またここで問題が発生した。
「えっ、ばぁちゃんが危篤!?」
ドリプラまであと二週間。ばあちゃん、体調を崩して入院していたと聞いていたが。この時期になってそんな…。
支援会も実行委員会も大詰め。ばあちゃんのために実家に戻るとなると、往復で一日はつぶれてしまう。今夜は支援会もあるし。どうする?
島原さんに事情を話してみる。
「それは帰ってあげなさい。今夜の支援会はなんとかするから」
そうは言ってくれたものの。ちょっと心が揺れる。
私は小さい頃ばあちゃん子だった。決して私には怒ることがなかったやさしいばあちゃん。そのばあちゃんが…
「じゃぁ、今夜だけはよろしくお願いします」
そう言って私は飛び出していった。
実家に着いたのは昼過ぎ。そこでばあちゃんの病院に行きお見舞いをする。ばあちゃんの姿を見てびっくり。やせ細って、私の記憶の中のそれとは全く違うものになっていた。起きているのか寝ているのかもよくわからない状況。
「ばあちゃん、ヒロキがきてくれたよ」
母がそう言う。するとゆっくりと目を開けるばあちゃん。
「ばあちゃん、ヒロキ、わかる?」
母の声にばあちゃんはゆっくりとうなずいた。
「ばあちゃん、ヒロキだよ。わかる?」
「ヒ…ロキ…」
声にならない声で私の言葉に応えるばあちゃん。
「正直、この数日が山だろうな」
父はそう言う。
「ヒロキ、あんたついてあげられないのかい?」
母はそう言うが、ドリプラが気になって仕方ない。ばあちゃんのそばについていてあげたい気持もある。この二つの心に揺れる私。そのとき、電話が。
「はい」
「ヒロキさん、今どんな状況ですか?」
電話をかけてきたのは、実行委員の祐太郎くん。彼は若いながらもしっかりしている。こちらの状況を話すと、こんな言葉が。
「こちらは大丈夫ですから。安心しておばあちゃんのそばにいてあげてください」
このとき思った。私には信じられる仲間がいる。こういうときは仲間を頼っていいんだ。
「じゃぁ、なにかあったら連絡をしてくれるかな」
「はい、まかせてください」
私は祐太郎くんの言葉に甘えることにした。
仲間を信じて、任せるところは任せる。これも大事なことなんだ。
それから三日後。おばあちゃんは眠るように逝った。葬儀も含めて一週間留守にしたが。ドリプラの進行状況はどんな感じだろうか?
「ヒロキさん、お疲れ様でした」
残り一週間、今の進行状況を祐太郎くんから聞く。島原さんと進行や準備のことを進めてくれたらしい。あとはプレゼンターの仕上がり次第だな。
この日の夜は最後の支援会。プレゼンターの仕上がりを見せてもらう日だ。果たしてどうなっているのか?
七人のプレゼンター、それなりに自信を持ってプレゼン。しかし、実行委員長の島原さんの言葉はちょっと冷たい。
「いいんだけど…まだこちらに伝わってこないんだよね」
「うぅん、それだとまだ説明口調になっているなぁ」
「本当に何がやりたいの?」
今までその変遷を見てきた支援者達も、ここはもうちょっとどうかな、といった言葉を出す。ここにきてみんなの見る目が急に厳しくなった。
それもそのはず。みんな本気だから。本気でその人の夢を支援し、本気で見に来た人たちを感動させようと思っているのだから。だからこそ、本気で本音をぶつける。これも一人でやっていては決して気づくことのないところだ。私は支援会の進行を淡々と続けながらも、みんなの本気さを形にしたいという思いがさらに強くなった。
ここにきてストーリーを白紙に戻したプレゼンターもいる。中の写真や絵をすべて作りなおすプレゼンターもいる。残り一週間を切ったドリプラ。本当に間に合うのだろうか?
その一方で、私の作業も進めなければいけない。やることはまだまだたくさん残っている。
ドリプラ予選会前日。最後の作業を夜遅くまで私の事務所で行った。島原さんとの進行の打ち合わせと、それに合わせて会場で流すテロップ作成。本番当日、私は全体の進行に合わせてプロジェクタに流すテロップや動画の操作を担当する。裏方にして最大の仕事だ。これがこけると台無しになってしまうからな。
そして予選会当日。この日は昼から会場準備。この日の準備はそんなに大したことはない。が、正直気が重い。なぜなら、私と島原さんの二人の協議で七人のうち二人を落とさなければいけないからだ。
これについてはさんざん協議した。どうせなら七人全員発表してもらってはどうか。いや、ここは当所の通り厳しくいかないと、プレゼンターに緊張感と本気がなくなる。けれど落とすのが二人なのは忍びない。などなど、かなり意見を交わした。その結果、今まで見てきた私と島原さんが審査をした結果であれば、落ちた二人も納得するだろうということになった。
だからこそ気が重い。できればこの役目は避けたかったのだが。
予選会スタート。七人とも驚くほどの出来に仕上がっていた。一週間前とは比べ物にならない。この中から二人落とせというのか。私は苦渋の決断で二人を選んだ。
島原さんも落とす二人を選ぶ。ここで二人の意見が一致すれば問題なかったのだが。二人共別の人間を選択。ここからの協議が長かった。会場のみなさんには十分ほどと言って別室に移ったのだが。二十分以上かかってしまった。
ここまで一緒にやってきた仲間から二人脱落者を出す。こんなにつらいものだとは。
結果発表。これはプロジェクタに合格者五名を一気に映し出す。とても声に出しての発表はできない。
ドラムロール。そして…画面に五名の名前が映し出される。安堵するもの、喜び叫ぶもの、そして落胆するもの。けれどそこに競争はない。みんなでつくりあげた。そしてみんなで喜びあえた。
島原さんに実行委員長として言葉をお願いしたのだが。この時点で島原さん、涙で言葉に詰まってしまう。私もその姿を見て少し泣きそうになった。けれど私は泣かない。この会の進行を責任持って進めなければいけないから。
このあと、事務連絡をしていよいよ明日、ドリプラ本番がスタートする。プレゼンターの皆さんはこれで完成ではない。さらに練りあげてプレゼンの完成度を上げてもらわなければならない。私たち実行委員は明日の会場準備に移る。私は事務局として淡々と仕事を進めた。
そしてドリプラ本戦の朝。
「いよいよか…長かったな。でも、これからまた長い一日が始まるぞ」
そう自分に言い聞かせ、会場に向かう。
会場には一番乗り。早速いろいろな荷物を運び出す。徐々に人が集まる。アトラクションで歌を歌ってくれるグループも登場。音響と打ち合わせをしながら、その背後で私はプロジェクタのスライドの最終調整。司会とコメントを合わせながら、その場で作成したりする。さらに、今日発表するプレゼンターの動画データをもらい、パワーポイントに埋め込んでいく。
会場が徐々に賑やかになる。私の作業は開場一時間前にようやく終了。あとは操作をミスらないことを祈るだけだ。
「あ、ヒロキさん。どうですか、これ」
ロビーではプレゼンターたちが自分の事業をアピールするブースができている。私は一つ一つを見て回る。ここまでやってきたんだなぁ。その思いがだんだんと募ってくる。
そしていよいよ開場。とはいっても、行列ができるなんてことはない。一人、二人と少しずつ会場が埋まっていく。
「ヒロキさん、きたよ」
声をかけた知り合いの姿を何人か見ることができた。
間もなく開演。なのに客の入りはいまいち。初回のドリプラはこんなもんなのかな。
「それでは今から、ドリームプラン・プレゼンテーションを開催します!」
舞台の上では声高らかに島原さんが開会宣言。私はタイミングを見計らってスライドの操作。
思えば自分の人生って、こうやって裏方に回ることがほとんどだな。でもそれでいい。コーチは主役であるクライアントをいかにして引き立たせるのか。それが仕事なんだから。
今回も主役はプレゼンターたち。さらにはこの大会をやろうと企画し立ち上がった実行委員長の島原さん。この人達をいかにして喜ばせ、充実させるのか。それが自分の役目なのだから。そう何度も自分に言い聞かせながらも、たまには舞台の上に立ってみたいという気持ちもある。このドリプラが続いていくのなら、自分もプレゼンターになってみたいな。そんな気持もある。でも、裏方に徹してみんなの夢を応援していきたい気持も強い。
ドリプラの進行は着々と進んでいく。プレゼンターも力の入ったプレゼンを行う。昨日の予選会からさらにグレードアップした内容と語り。見ている人の涙を誘うものもある。
休憩時間中、私は会場を一回り。みんないいね、感動したを口にしてくれている。来場者は少ないけれど、内容は他のドリプラには負けていない。
私は他のスタッフとは違い、観客席側で一人でスライド操作をやっている。他のスタッフは舞台裏などでワイワイとやっているんだろうな。若干の疎外感も感じなくはない。けれど、この役目は自分から進んでやろうと思ったこと。だから今は自分のやるべきことをやる。そして舞台を盛り上げ、プレゼンターの夢を少しでも実現に向かわせるようにする。それが自分の夢なのだから。
舞台は後半へと進む。このドリプラは、プレゼンターがひと通りプレゼンを終わると観客からの投票がある。プレゼンに感動したと思える人のものに「感動大賞」、この人の夢を応援したいと思ったものに「共感大賞」が与えられる。
五人のプレゼンが終わり、また長めの休憩。その間に投票カードを集めるスタッフ。このあと集計作業があるので、その間に舞台では地元で頑張っている女性デュオに歌を歌ってもらう。この二人も頑張って自分の夢を実現させたんだな。
みんな何かしらの夢は必ず持っている。その夢を奮い立たせ、実現への一歩を踏み出してもらう。それがこのドリプラ。舞台に立った人だけではなく、見ている人も「よし、自分もやるぞ」と思ってもらうこと。それを演出するのが私の夢なのだ。
そしていよいよ感動大賞、共感大賞の発表。ここのタイミングが自分としては一番緊張する。
ドラムロールの音、そして表彰状を読むときのBGM。ここをトチるとせっかく盛り上がった舞台が台無しになる。
「感動大賞は…」
ここでキーを押す。バッチリのタイミングでドラムロール。その後、表彰状を読んで受賞者のコメント。ここを難なくこなして、あとはスタッフが壇上に立ち締めのあいさつ。だがこの時点で私は壇上には上がらない。なぜなら、最後のエンドロールのスライド操作が残っているから。
「スタッフみんな集まれ!」
実行委員長の島原さんの掛け声で、会場に散らばっているスタッフ全員が壇上に上がった。本当ならあの場に私も立つのだろうが。
スタッフを盛り上げ、みんなの夢を叶えること。これが私の役割なのだから。ここは客席からみんなの笑顔を眺めるしかない。だがここで予想もしなかったことが起きた。島原さん、マイクを握ってこんなことを言い出したのだ。
「最後に皆さんに紹介したい人がいます。このドリプラを立ちあげて、今までずっと裏方で頑張ってくれた人です。この人がいなければ、ここにいるプレゼンターもここまでのものは出来なかったはずです」
えっ、島原さん何を言い出すんだ?
「今回、ずっとこの目の前の席でプロジェクタの操作をやっていただいていました。それではご紹介します……コーチのヒロキさんです!」
突然私にスポットライトが当たった。恐る恐る立ち上がる。そして島原さんに促されるようにステージの上へ。
「ヒロキさん、ぜひみなさんに一言」
そう言ってマイクを渡される。壇上から観客席を見る。薄暗い中にも、みんなの顔がこちらを向いているのがよくわかる。
「え…みなさん、本日はこのドリプラにおいでいただき…」
この時点で急にこみ上げてくるものがあった。声に詰まる。目が潤んできたのがよくわかる。
ここまでの道のり、とても長かった。島原さんに声をかけられたのが一年近く前。最初は二人でいろいろと企画を立て。そして徐々に仲間が増え。こうして今、この舞台ができあがった。
「がんばれー!」
後ろから仲間の声援が聞こえる。
「今日、この日を迎えられたのは、ここにいる実行委員会メンバー、おいでいただいた皆様、舞台を支えてきたスタッフのおかげです。本当にありがとうございます」
感謝の言葉が口から先に出てくる。ここで私は一度涙を振り払い、思い切って今の思いを言葉にする。
「このドリプラ、これからがスタートです。ここにいるプレゼンターの皆さんも、そしてこの地で開催したドリプラも」
私の思いに拍手が。
「私には夢があります。それは、多くの人に夢を語ってもらう。そして多くの人がそれを支援しあう。そんな場をつくっていくことです。そのためにも、このドリプラをこれからもやり続けます!」
わぁぁっという歓声とともにさらに大きな拍手が。
私は一度後ろを振り向く。みんなが私の顔を見て笑ってくれている。私は意を決してこの言葉を出す。
「ドリプラ、来年もやるぞー!」
「おーっ!」
みんなの気持がひとつになった。スタッフも観客も気持はもう来年のドリプラに向けて動き出した。そう感じられた瞬間。
このあと、エンディングロールが流れる。すると、実行委員長の島原さんがみんなに胴上げをされている。私はそれを笑顔で見守る。
「今度はヒロキさんだー」
えっ、えっ。私はみんなに囲まれ、そして気がつくと宙を舞っていた。
「わーっしょい、わーっしょい」
宙を舞う間、私は思った。
アイ・ハブ・ア・ドリーム。私には夢がある。その夢にまた一歩近づけた。このドリプラのお陰で。
次はみんなの夢をさらに応援する番。来年もやるぞ!
<アイ・ハブ・ア・ドリーム 完>