価値観の相違
目の前に運び出されたパンとスープを見て、ミゼルは俺の顔をチラチラと不安そうに伺う。
「……どうした?」
まあ手放しに喜んでもらいたかったという訳でも無いが……そこまで不安そうな顔をされるのもなぁ……
もう夕方になるが今日はまだ食事をとっていない、と聞いたしお腹が減ってないってこともないと思うが。
毎日あの男がお腹いっぱい食べさせてるなんてことも……ほぼ無いだろうしな。
「……いいのでしょうか?」
「え?」
漠然と聞こえたその問いに、素っ気ない声で返してしまう。
……いいのでしょうかって、何か今の流れで気兼ねすることがあるのか?
そんな事を考えているとミゼルはゆっくりと口を開き……
「本当にこんな高級な料理を……私なんかが口にして宜しいのでしょうか?」
と、深刻な顔を浮かべながらそう口にしたのだ。
正直、耳を疑った。
だって……今目の前に出されたのはなんて事の無いただのパンとスープだ。
お世辞にも、高級料理とは言えないであろう普通の料理である。
だが、俺は直ぐに彼女の境遇を思い出す。
……そうだ、彼女は今まで決して普通の生活を遅れてきた訳では無い。
勿論それは食事だって……結果パンやスープが高級に思えてしまう程の貧相な物だったのだろうか?
……あいつ、簡単に野放しにしていい奴じゃなかったな。
一体どんな食事を摂らせて来たのか、じっくり問いつめてやりたいが……生憎あっさりと俺は見逃してしまった。
かと言って簡単に直接本人に聞く訳にも行かない。
何にせよ、俺に出来る事はただ1つ。
「ああ、全然大丈夫だよ」
肯定、それだけである。
今は特に背景や事情を聞かず、間違っていない事を認めてやるべきなのだ。
根本的な価値観の違いなんてそう簡単に変えられるものでは無い。
だからこそまずは、食べても大丈夫って事を教えよう。
「ほ、本当に……いいんですか?」
ミゼルは依然として、遠慮がちな姿勢を崩そうとはしない。
しかし先程と比べると……なにかを期待している様な瞳に見えた。
多分、俺の許諾を得たという事もあって少しだけ遠慮が無くなったのだろう。
「ああ、おかわりもいいぞ!」
となると俺がこのまま押し通せばいい話だ。
少しでも口調や態度を崩して……出来る限り安心できるように。
この対応が100%正しいかなんて分からない。
だがとにかく何かその場においての最良の択は無いか……常に模索していくしかないのだ。
ミゼルは辺りをキョロキョロと見回した後ゆっくりと息を吐く。
そして
「で、では……恐れ入りますが……いただきます」
そう言って、ゆっくりとスプーンを手に取りスープを掬う。
俺はその様子を見て思わず安堵のため息をこぼす。
何はともあれ……とにかく食べてもらう事には成功したみたいだ。
そして俺は……ゆっくりとミゼルがスープを嚥下する瞬間を見定めた。
グルメ入れられなかった……申し訳ございません。
クラウドはミゼルといる間は復讐の事とかはそこまで考えてはいないですね。
ですが勿論ざまぁ展開は来るので……ぜひ楽しみにしていてください!