心理学&頭脳無双
「……お兄さん、何のおつもりで?」
俺の意図を察したのか、男の顔が僅かに強ばる。
やはりこの少女を引き剥がされるのは不都合……と言っても親からしたら愛する子を守りたいのは当然の話と言えるだろう……多分。
……だが、お前は違うんだろ?
「……この子、貴方の娘じゃないですよね?」
単刀直入に切り出させてもらおう。
その言葉を受けて男は一瞬俺から目を逸らし、やがてもう一度俺を一瞥して同時に引きつった笑いを浮かべる。
何を言っているんだとでも言いたげな顔だが……あいにく今の反応を完璧に捉えた。
間違いなく、こいつは彼女の父親ではないだろう。
もし本当の親だとしたら俺の言った言葉に反応するのは違和感がある。
こいつは、俺に疑われていた事を最初の対応から何となく察してはいた筈だ。
しかしいくら何でもいきなり直球で問いつめには来ないとタカをくくっていたのだろう。
そして俺の問いに一瞬の焦りを見せた。
親子関係で後ろめたいことがある、という可能性も勿論捨てきれはしないが……
しかしそれなら、この質問に焦りを見せる理由は無い。
2人が親子というのが紛れもない事実なら……それに対しては自信満々に首を横に触れる筈なのだ。
「な、何か邪推をしておられのようで……全然そんな、後ろめたい事とかは無いですよ?」
言葉をどもらせながらも反論はするようだ。
何としても笑顔は崩さない……そういった姿勢が奴の顔から窺えた。
つまり、やつの笑顔を崩れせれば、言い負かしたと言えるだろう。
さて……そのために今の俺の独白をそのままぶつけてやっても良いが……
心理学、及びそこに基づく推測はあくまで主観の一環である。
いくら俺の中で証明されようと……それだけでは確固たる真実にはなり得ない。
だからこそ、俺は更に理詰めで追い詰める。
男の手首を掴み、指がよく見えるように眼前まで引っ張る。
「随分とご自身の着飾りに散財しているようですが……娘さんに何か新しい服を与えないのですか?」
「……あっ!」
どうやら言われて気付いたようで、途端に目を泳がせ始めた。
そうだ、そもそもこんな貴族の様な男の娘だとしたら……もっと高級な服があてがわれるのが道理だろう。
俺の様な冒険者という訳でもあるまい。
また、それなりの立ち位置の人間なら使用人なりなんなりを使う筈だ。
わざわざ父親自ら出向く理由は……まあ、余程溺愛していると言う可能性はある。
しかしそれなら……ここまで娘に怯えられてるのはおかしいよな?
従って、既にその時点で矛盾が生まれてるのだが……何か反論できるのか?
「ち、ちくしょう……その洞察力……お前、一体何者なんだ!?」
どうやら諦めたようで、仮面を脱ぎ捨てたちまち奴は素顔を表した。
俺を全力で睨み据え、冷や汗を流しながら歯ぎしりをしている。
まあやっぱり……奴隷商人の類だったか。
この子がどこかとんでもない所に売り飛ばされる前に……間に合ってよかった。
ああそうそう、一応質問には答えておこうか。
俺が何者か……だったな。
自信満々に男を睨み返して、俺は口を開く。
「最底辺、Gランクのただの冒険者だ。最も今は……の話だけどな」
そう、あくまで今はの話に過ぎない。
俺はこの最強のステータスを使い奴らに報復をした後に……やがてSランクにまで登り詰める。
知略と力を思う存分利用し……成り上がってやるんだ!
しかし、今の俺には知る由もなかった。
まさかSランク冒険者というのはただの通過点で……やがて神とまで崇められるようになるとは……
本当に……知る由もないのである。
次回から奴隷の少女、ミゼルとの生活が始まります!
そして奴隷商人の癖に何故商談にもつれこまなかったのか……それについても説明する予定です