少女との出会い
さて……ゾンビについて考え込むのはさておき、今後の事を改めて考えてみるか。
……正直、3日というのは予想以上の早さだ。
そのため食糧も大量に余ってしまった……まあそれは悪い事ではないが。
恐らく、アイツらは既に話していたダンジョンに向かっているだろう。
となるといつ帰ってくるかはわからない。
さすがに1ヶ月以上はかからないと思うが……3日というのも有り得ないだろう。
あのダンジョンの性質上追跡も不可能……八方塞がりの様な気がしてきた。
まあいい、それまでは自由時間だ。
しかしそれはそれでどうしたも……
「うおっ……!?」
突如胸に来る柔らかい衝撃に驚き、思わず声を上げてしまった。
……我ながら考え事をしている最中は周りが見えなくなる点は直した方がいいと思う。
だから今も前方から来る少女に気付かず……
ん?
改めて薄らと視界の端に映った人物をしっかり視認する。
……うん、少女だ。
恐らくこっちに向かって走ってきたのだろう。
水色のミディアムヘアが良く似合う、端正な顔をした少女だった。
見たところ……12歳くらい……とすると6歳差か。
少女は俺を見て一瞬目を見開き、たちまち緑色の瞳に涙を浮かべる。
そして困った様に手をもじもじとさせながらきょろきょろと辺りを見回していた。
……って待て待て、俺そんな怖い顔してたか?
そんな覚えはないし……しかし絶対に俺に対して怯えてるよなこれ……
そんなに強い勢いでも無かったと思うし……ああ、知らない人とぶつかった事が不安なのかな?
何にせよ、泣きそうな少女を放っておくことなどできない。
俺は彼女に視線が合うように屈み、出来る限りの優しい笑顔を浮かべる。
「……ごめんね?大丈夫?痛くない?」
少しでも彼女を威圧しない様に精一杯の猫なで声を出す。
正直こういった事は得意では無いが……さすがに少しは警戒は解いてもらえるだろう。
……しかし、何故こんな所に親も友達も連れずに小さな女の子が来るのだろうか。
少女の進行方向を考えても……精々そこらにあるのは無数の木々が生い茂る森林くらいだ。
別にここら辺の地帯、遊び場にするような地形でもないよな?
まさか……何か親と喧嘩して家出とか……
いやぁ、さすがにそれは考えす……
「……?」
突如、腕を掴まれたことに気付く。
最も今の状況で俺の腕を掴めるのは一人しかいない訳で……
俺は直ぐに、少女が腕を掴んできたことを理解した。
しかし、それと同時に掴まれた腕から微かに震えも伝わってくるのだ。
俺はその感触に違和感を感じ、改めてじっと彼女を見つめてみる。
「たす……けて……」
絞るような声だった。
その時の彼女の顔を見て、親に叱られて悲しいとか怖かったとか……そういう次元の話じゃないことが一目で分かった。
間違いなく何かから……逃げて来たのだ。
よく見ると服装もおかしい。
薄汚れたワンピース……そしてそこから見える肌には何か傷のような跡。
そのお嬢様の様な美しい顔からは考えられない程……見窄らしい風貌だった。
とにかく、俺はそっと彼女の頭に手を置いて優しく摩る。
気休め程度だが……少しでもこれで安心して欲しかったのだ。
具体的な背景は見えないが……何か凄惨な過去があるのだろう。
少しでも今はリラックス出来るように……そうだ、アロマ系統のスキルを試してみるか?
彼女に対しての推察と、恐怖心に対する対策をしていたその時だった。
「ダメじゃないかミゼル……知らないお兄さんに迷惑を掛けちゃ……」
その声を聞いた瞬間、彼女の震えはより激しいものとなった。
それに伝達されるように俺の視線は少女から、声の主の方へ動く。
「いやぁもう……すいませんね、うちの娘が……」
ハット帽を被り、黒のスーツに身を包んだ髭面の男がそこに居た。
彼は少女を一瞥して、にっこりとした笑顔を浮かべる。
少女はそれに対してビクッと肩を震わせる。
明らかに異様な態度だ。
……そして、日に照らされ輝く5つの指輪を見て、それなりに彼が裕福な生活を送っていることが推察出来た。
……成程、何となく分かってきたぞ。
俺はそっと彼女を庇うように前に立ち、男と向かい合う。
それを見て男は微かに眉を揺らし、困ったような苦笑いを浮かべた。
父親を騙った奴隷商人……或いは本当の親子だろうが……この子を渡す訳には行かないな。
奴隷少女……ある種のテンプレートですね。
勿論このあとは皆様のご希望通りの展開になりますのでぜひお楽しみに!