放課後はブラッケンド
『恋愛ゲームとは弾幕STGのようなものだ。
ぶち当たると死んでしまうが、ギリギリで躱さなければ快感もない。』
――イングウェイ・リヒテンシュタイン
次の日の放課後、俺は礼ちゃんに告白された。が、ここはたいした問題ではない。俺の本命は、サクラなのだから。とはいえ、せっかくなのでOKしておく。
「インギー君、私と付き合ってくださいっ!」
「もちろんOKさ。礼ちゃんだっけ、よろしくね」
「はいっ!」
礼ちゃんはえへへーとにやけつつ、俺の腕にはっしとしがみついてくる。とりあえず今日くらいは一緒に帰ってやるか。
俺たちは連れ立って校門を出ていく。そこへ前から歩いてくるサクラ。
「……インギー君? もしかして、礼ちゃんと付き合うことにしたの?」
サクラは下を向いたまま、俺の名を呼んだ。オーガの唸り声のように低い声だった。
大丈夫、これはゲームだ。きっとこれでフラグが立つ。
きっとここから、サクラと礼ちゃんで俺の取り合いが始まるのだろう。楽しみだ。
「ああ、そうだ。でもサクラのことも、友達として大切に思っているよ」
「……んじゃないわよ」
ぱちりと何かが弾ける音がした。
「どうしたの、佐倉。そんな泣きそうな顔して。……もしかして、あなたもインギー君のことを?」
ほら、思った通りだ。さあ、サクラ。お前も俺が好きなんだろう? その思いを口にするんだ。
「そんなわけないじゃん。礼ちゃんが一番大切だよ?」
サクラは礼ちゃんに満面の笑みを向け、その後、俺をじろりとにらんだ。
「あんたを信じた私がバカだったわ」
「え、……佐倉? どうしたの?」
サクラの髪がふわりと持ち上がる。周囲の空気が振動し、雷のような光の筋が走った。パチパチと油が跳ねるような音が断続的に聞こえてくる。
これは――
「これは、もしかして魔力の暴走か?」
「イングウェイ、あんた、礼ちゃんの純粋な気持ちをもてあそんで。絶対に許さないから!」
サクラが叫ぶのとほぼ同時に、炎が巻き起こり、俺を包もうとした。
俺は反射的に礼ちゃんを突き飛ばし、防御魔法を展開する。青白い盾が宙に発生し、炎とぶつかり合う。
「ぐあっ!」
勢いは殺しきれず、俺は転がりながら校門の陰へと身を隠す。
べこんっ、どがららっ!
「うおっ、なんだ?」
「ぐへっ、また蹴飛ばさたでやすっ!」
俺は奇妙な一斗缶にぶつかり、すっ転ぶ。くそっ、邪魔だ。一升瓶なら中身次第で許してやったものを。
一斗缶はわめく。
「この世界の住人は、前を見て歩く習慣がないんでやすかっ、まったく! ――っああっ、き、きさま、いんぐうぇい!……さんじゃないっすかー」
「なんだお前、俺のことを知っているのか? さては、サクラか誰かの仲間か?」
「ちいっ、バレてるでやんすっ!」
一斗缶の上部にあるレンズがきらりと光る。俺は殺気を感じ、身をかわす。
一瞬遅れ、一斗缶の放ったレーザー光線が、俺の制服の端を焦がした。
「なんだこいつ、敵か?」
「ミリリッ太でやす、ここで会ったが百年目、覚悟するでやすっ!」
ミリリッ太。聞いたことがあるようなないような。しかし今は思い出している場合ではない。
一斗缶だけではなく、サクラも俺を狙っているのだから。
まったく、どうしてこうなった?
 




