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ドキドキ☆ラブ・ライトニング!


「じゃあね、佐倉」

「うん、また明日ね」


 いつもの曲がり角で礼ちゃんと別れた私は、そのまま自宅とは別方向へ歩きだす。

 向かう先は、インギー君のマンションだ。


 礼ちゃんのことなら、だいたいわかる。おしゃれで新しいものが好きで、かっこいい男の子に弱いのだ。

 インギー君はすっごくタイプのはずだから、いつかこういう日が来ると思って準備していたのだ。


 とあるコンビニで少し待つ。ここは、彼の通り道。

 冷たい風が吹き抜ける。中で待とうかと少し考えたが、彼を見逃しても嫌なのでやめておく。

 マフラーに顔をうずめて礼ちゃんの笑顔を思い出していたら、やっと彼がやってきた。


「ああ、佐倉じゃないか」

「インギー君!」

「待っててくれたのか?」

「ええ。誰にも見られてない?」


 インギー君は笑いながら、慣れた手つきで私の肩に手を回した。何を勘違いしているのだろう、こいつは。

 吐きそうだ。

 礼ちゃんとの時間を削ってこんな男と会っているだけでも嫌なのに、服越しとはいえ、私の身体に触れてくるなんて。帰ったらすぐにシャワーを浴びないと。


「別にいいじゃないか、見られたって」

「もう、言ったでしょう、うちはこういうの厳しいんだから。何かあったら、インギー君にも迷惑がかかるわ」

「オレは別にかまわないけどな。どう、少し家に寄って行かないか?」

「ダメ。今日は委員会のことがあったから、これ以上遅くなるとまずいわ」

「なら、ムリして待っててくれなくても――」


 私は半歩だけインギー君の方に移動して、首を傾けた。

「いいじゃん、ちょっと顔が見たかったんだもん」


 これが限界だ。これ以上は、私の理性がもたない。


「……他の女の子に告白されても、付き合っちゃダメだよ?」

「わかってる」

「じゃあね、また明日、学校で」


 私は時間を確かめ、慌てるようなそぶりで彼から逃げ出す。

 角を曲がる前に、もう一度だけ振り返る。彼はあんなに小さくなっているのに、まだ手をぶんぶん振っている。バカみたいだ。


 私も右手を上げ――




 ガコンっ。

「きゃっ」


 鈍い金属音。私はよろけ、転びかける。何かを蹴飛ばしてしまったようだ。

 目の前には、奇妙な一斗缶。側面と底からは、四本の棒――まるで手足だ――が伸びている。顔らしき部分には、レンズまで。

 なにこれ、ロボット?


「あいてて、前くらい見て歩くでやす! 気を付けるっすよ!」


 なにこれ、喋った? 最近のおもちゃはこんな高性能なのだろうか?


 戸惑う私を、一斗缶は上部に付いたレンズでじろじろと眺める。ウイーンと小さく聞こえるのは、モーターの駆動音かしら?

 こいつ、まさか録画とかしてないでしょうね? 警戒する私。


 ロボットは唐突に立ち上がり、側面の棒――やはり腕だった――で私の手を握り、ぶんぶん振りながら言った。


「も、も、もしかして、サクラの旦那じゃないですか! あっし、ずいぶんと探したんでやす! よかった、ほんとうに良かったでやす!」


 意味がわからない。確かに私は佐倉だが、なんでこいつは私の名前を知っているのだ。

 それに旦那ってなんなんだ。私は女だ。

 そもそも、なんだこの状況は。


「誰よ、あんた」

「ミリリッ太でやす、覚えてないんでやすか? あんなに愛しあったのに!」


「知らない」


 愛し合った? 冗談だろう。私は平凡な女子高生だ。男子と付き合った経験どころか、キスもしたことがない。

 それを、ロボットが?


 私は無視して逃げることにした。


「サクラの旦那! 待ってくだせえ!」

 追いかけてくる一斗缶。

 なんだこいつ、結構足が速い。短いくせに。


 ――あ、あれだ。

 右側に橋が見えた。私は橋の方へ曲がるとすぐに立ち止まり、欄干をしっかりと持つ。

 迫りくる一斗缶。


「うおおっ! ぶつかるっすー!」

 せこせこと短い足で走ってくる一斗缶は、急には止まれない。

「せーのっ!」


 私は、迫ってくる一斗缶を、思いっきり蹴り飛ばす。 べっこんっ!

「あうちっ!」

 変な悲鳴がしたが、ええい、知ったことか。


 一斗缶はよろけると、そのまま欄干の隙間から、スローモーションのようにゆっくりと下へと落ちていった。


「あーーー、またでやんすかーーーっ!!」


 ばっちゃん。


 派手な水音。

 一斗缶はそのままぷかぷかと浮きながら、流されていった。


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