恋の季節と嫉妬の炎
「佐倉ー、あんたまだ帰らないの?」
「あ、うん、ちょっと待ってて」
「もー、どんくさいなあ。だからいっつも男子に雑用押し付けられんのよ」
礼ちゃんは私の親友だ。ちょっと口は悪いけれど、本当はすごく優しいってことを私は知っている。
今日だって。なんだかんだ言いつつも手伝ってくれるのだから。
残った委員会の仕事を二人で片付けて、薄暗くなった教室を後にする。
「ねえ佐倉ー、来週どうすんの?」
「へ? 来週って、何かあったっけ?」
「あんたねー、何すっとぼけてんのよ。バレンタインに決まってんでしょうが! バ レ ン タ イ ン ! 今年もおとーさんにあげて終わりーとか、腑抜けたこと言うんじゃないでしょうね?」
うーん、困った。忘れていたわけではないけれど、ごまかすことはできないかー。
「ええと、一応、礼ちゃんにもあげるつもりだけど……」
「別にいい」
「えー、でも、美味しいよ?」
「いいってー」
本気だったのに。私には礼ちゃんがいればそれでいいんだけどな。
そういえば、こないだもらった進路希望も来週までだっけ。礼ちゃん、どこの学校にするんだろう?
そんなことを考えていたら、礼ちゃんが深刻そうな顔をして歩いているのに気付いた。
「……礼ちゃん? どうしたの?」
「……佐倉、私、明日インギーに告ってくるわ」
インギー君というのは、先月アメリカから転校してきたクラスメイトだ。かっこよくて運動神経も良くて、はっきり言ってモテる。
ずきりと痛む胸を押さえて、私は言う。
「え、明日? バレンタインは来週だよ?」
「バカねえ、バレンタインに告ったって、ライバルだらけじゃない。ただでさえあいつはモテるんだから、他人と同じことやったってダメに決まってんでしょ?」
「あ、そっかぁ」
平常心だ、平常心。
私の心に刺さった棘がじくじく痛む。私は礼ちゃんに悟られないように、いつもの調子で元気よく言った。
「がんばって、応援してるから!」
ウソだ。応援なんかしたくない。私はバカだ。
礼ちゃんには幸せになって欲しいけど、他の人の物になるのもイヤだ。でも、それを言葉に出すなんて、もっとムリだ。
礼ちゃんに、嫌われたくない。それだけだ。そのためならなんでもする。
「ありがと、佐倉」
礼ちゃんの笑顔は太陽みたいだ。礼ちゃんは私の事をいつも可愛いと言ってくれるけど、本当に可愛いのは礼ちゃんのほうだ。
いつもまっすぐで、がんばってて。ちょっとドジなところもあるけれど、すっごく良い子なのだ。
だから、私は礼ちゃんが好きだ。
だから、私は笑って言えるのだ。がんばって、と。




