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Swordlash


 靄から這い出てきた蜥蜴(リザード)は、ゆっくりと二本足で立ち上がる。前傾姿勢を保ったまま、のそのそと歩く。

 武器は持っていない。

 歩くたびに、ぎらぎらとした鱗が月明りを反射する。

 似たようなモンスターは多過ぎて特定はできないが、見る限りでは、低級モンスターだろう。まさかブレスは吐くまい。


 イングウェイと向かい合うと、蜥蜴(リザード)は四つ足になり、尾を振りながら突進してきた。

 自分よりも一回り小さいことを確認し、ほっと胸をなでおろす。


 汗で滑る鉈を構え、蜥蜴がとびかかる瞬間を狙い、ぶんと力任せに振り下ろした。

 固いタイヤにでも打ち込んだような衝撃。弾かれたのは、イングウェイの方だった。

 蜥蜴は勢いそのままにイングウェイにのしかかろうとする。


 冷たい爬虫類の肌がおぞましかった。無理やり押しのけようとして腕を突き出すと、腹に当たる。思ったよりも柔らかく、形を変える。ぐにりとした感触が手のひらにこびりつく。

 腰に手をやり、息を止めて銃口を腹に付け、引き金を引いた。


 声も出さず、蜥蜴が飛びのいた。

 イングウェイは無様に這いずり、距離を取ろうとする。


 ――鉈は? どこだ?


 探している暇はなかった。というより、怖くて蜥蜴から目を離すことができなかった。息を荒く吐きながら、わずかに目を泳がせるのが精いっぱいだ。


 蜥蜴はこちらを見ている。動こうとはしない。

 傷があるかもわからない。ただ、動かない。


 イングウェイはリヴォルヴァーを掲げていた。十字架を掲げるように。

 後ずさる。ゆっくりと。



 ずぶりと、肉が避ける音がした。

 蜥蜴は一度だけ天を仰ぎ、そのままばたりと頭を地につけた。


 蜥蜴の背には、白く輝くカタナが刺さっていた。


「何をしているのです、こんなところで」


 いつの間に現れたのだろうか。サクラ・チュルージョが、立っていた。


 彼女は蜥蜴の横に立ち、カタナを腹に突き立てた。一撃で屠った。

 イングウェイはだらりと腕の力を抜き、目を閉じた。

 そして、深く、深く安堵した。


 イングウェイは言った。

「またお前か」

 その言葉にサクラは答えなかった。代わりに、質問をぶつけてきた。


「それは、もしかしてコルトですか? ええと、ピースメーカーとかいう」

 イングウェイは手に持っていた銃を見る。

「お前、それがどんな銃か知ってんのか?」

「ええ、友人が使っていました。もっとも本来のものとは違い、改造してあるそうなのですが。……少し違う形ですけど、あなたの持っているものととてもよく似ている」


「そうか、コルトか」


 イングウェイのつぶやきに、サクラは根気よく、じっと次の言葉を待った。

 完全に警戒が消えたわけではないけれど、少しは薄くなっていたようだ。


 数分の後、沈黙を続けるイングウェイをに対し、待つのをあきらめたサクラは言った。


「どうしたんです、こんなところで」


 イングウェイは答えた。

「家をゴブリンに襲われた」

「ゴブリンごときに? 倒せばいいでしょう」


「焼かれたんだ、全部」


 ああ、とサクラはつぶやき、そして小さな声で言った。

「ごめんなさい」


 やめてくれ、同情なんて御免だ。

 しかし、このあとどうするのかという現実は消えるわけではない。

 現実リアルが、消える? イングウェイは思わず笑いだしそうになる。


 笑ったのは、自分自身だ。ダイヴにはまっておきながら、今更現実が消えることに不安になる自分を。


「お前は何のためにここにいる? 追ってきた竜は倒したんだろう?」


 サクラは、ほっぺたを膨らませて言った。

「だから、帰り道がわかんなくなったって言ったじゃないですか」


 恥ずかしそうに言うサクラ。イングウェイはその時初めて、彼女を可愛いと思った。


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