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Alcoholbreath


「確かに私は、サクラ・チュルージョです。その名前をどこで知ったのですか?」


 サクラは問い詰めるように言うが、その口調に先ほどまでの棘はない。


「ダイヴしたときに、パーティーを組んでいた」

「ダイヴ、ですか。……知りませんね、それはどんな魔法です?」

 サクラは眉間にしわをよせ、再び疑うような表情でこちらを見る。


 沈黙。耐えられず、今度はイングウェイから聞く。


「こちらからも聞きたいことがある。このドラゴンはなんなんだ? それと、お前が使っていた魔法も」

「ドラゴンはドラゴンでしょう。カルポス山脈にはまだ生息していますし、たまにはぐれたものが人里に迷い込む。まさか、見たことがないと?」

「ああ、ないね。……少なくとも現実では」


「魔法も?」

「それは見たことがある。≪電撃(ライトニング)≫だろう? 俺もよく使っていた」

「やっぱり、知っているんじゃないですか」


 微妙にかみ合わない会話に、イングウェイはイラつきを隠さなかった。

 我慢なんてせずに、怒鳴り散らした。


「だから! それはダイヴ内での話だろ? 俺は現実(リアル)の話をしているんだ! このクソでかい化け物はどこから来た? お前のライトニングは、どんな武器を使った? 俺はまだダイヴ中なのか? 夢でも見てんのか? こんなクソみたいな現実(リアル)の夢を!」


 一気にまくしたてると、荒くなった息を整える。

 しまったと思ったが、遅かった。サクラの表情に、再び警戒の薄布(ヴェール)がかかる。


「クソが」

 唾を吐き、トラックへと戻る。一切振り返らずに。


 女は追ってこなかったし、声もかけてはこなかった。




 イングウェイはトラックに戻ると、すぐに車を出す。道を戻り、デイヴの店へと向かうのだ。

 ガタガタと上下に揺さぶられるうち、現実がゆっくりと戻ってくる。

 そうだ、あんなのは夢の中だけで十分なのだ。


 道は記憶通りに続いており、店もちゃんとそこにあった。

 錆びついた看板、放置されて埃にまみれたコンテナ。やる気のない店主。

 いつも通りの景色、いつも通りの店だ。


 車の音を聞きつけてか、デイヴが面倒そうに中から出てきた。


「ようインギー。湿気た面してどうしたよ?」


 いつもの声、いつものデイヴだった。

 その酒臭い吐息に、イングウェイはやけに安心した。

 彼はかつて、ダイヴから追放された人間だ。彼がここにいるということこそ、現実の証明なのだ。


「変な女に会ったんだよ」

 女だって? デイヴは変な顔をして、そしてケタケタと笑った。飲みかけの酒瓶を差し出してくる。


「そらお前、酒が足りんのさ。とうとう干上がったばあさんどもが女に見えてきたか。重症だな」


「違う、そうじゃない。若い女さ、ドラゴンと戦ってやがった」


「ほう、ドラゴンを? とうとうPCBに脳みそを焼き付かせたか。うらやましいぜ、そうなりゃどこだって楽園(パラダイス)だ」


「黙れよデイヴ。俺は本気で言ってんだよ」


 デイヴとは長い付き合いだ。その言葉が導火線に火をつけることを、イングウェイが知らなかったわけではない。だが、興奮のあまり忘れていた。

 デイヴの顔は一気に耳まで赤くなり、握りしめたこぶしがわなわなと震えた。

「本気、だと? おいインギー、お前こそ自分が何言ってんのかわかってるか? 俺にダイヴの話をするな、クソの話を聞かせるな。わかってんだろ?」


 デイヴの首の穴は、ふさがれていた。

 イングウェイはすぐに自分のミスを悟り、少したじろいだ。


「すまん」

 それが精いっぱいの言葉だった。嘘は吐きたくなかった。

 デイヴは首を振る。この話は終わりだということだ。


 デイヴがいつも通りに酒を出してきて、荷台へと積みこむ。

 イングウェイはくしゃくしゃになった紙幣で金を払い、頭を抱えたままトラックに乗り込む。


 デイヴが聞いてくる。

「おい、まだその頭痛、治らねえのか?」

「治るようなもんじゃねえよ、ごまかすだけだ」


「そうか。そうだったな。ああ、俺もそうだった」


 デイヴは頷き、酒瓶に口を付けた。


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