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the Five Guildmates


 イングウェイはトラックから降りると、ゆっくりと歩く。

 放置された農地は、中途半端な緑に覆われていた。

 草いきれに吐きそうになりながら、時折紛れている蛇に注意して荒れ地を進んだ。


 まず目についたのは、横たわる竜、苦し気にごうごうとうなるのが聞こえる。

 腹はまだ、ゆっくりと上下していた。死にかけているのだろう。起き上がる力はないようだ。


 女は女で、不思議な格好をしていた。東洋風の服装に、薄いピンク色の髪は後ろでまとめてあり、凛とした表情でこちらを見ている。

 見たところ、服に破れはない。土汚れくらいか。

 それよりも腰に差しているものが気になる。あれはたしか、カタナとかいう武器ではないのか?


 女はイングウェイに警戒しつつ近づく。

 イングウェイから口を開く。


「あー、お前は、誰だ? 言葉はわかるか?」


「……ええ、あなたは誰ですか?」


 ――この辺の奴じゃねえな。

 女の言葉は汚く、なまりだらけの喋り方だった。

 人に名前を聞くときは、まず貴様から言うもんだ。喉のすぐそこまで出てきたセリフを、げっぷとともに飲み込む。


「イングウェイだ。イングウェイ・リヒテンシュタイン。お前は?」

「……チュルージョと言います。この竜を追ってやってきたのですが、帰り道が分からなくなって。ここはどこです?」


 言葉こそ丁寧なものの、女がイングウェイを信用していないのは明らかだった。

 決して一定以上に近づかず、彼から目を離そうともしない。足運びは妙なリズムで、おそらくすぐに動けるように警戒しているのだろう。

 その態度は、イングウェイのムカつきを効果的に増幅していた。


 俺の土地で何をしている。きったねえドラゴンの死体は誰が片付ける。お前は誰だ。聞きたいことは山ほどあるが、まずはそのクソみたいな態度はなんだ?


「何様のつもりだ? 同じ名前のくせに、あいつとは大違いだな」

 思わず口を突いて出た。そこでまた、頭痛が走る。


「あいつ? 誰ですか、それは」

 女は聞いた。冷たい声だが、表情には少しばかりの変化があった。


 イングウェイは頭を押さえたまま、考える。

「あいつ? そうだ、俺は誰の事をいっている――」

 自分が言ったセリフを反芻する。なぜあんなことを言う? 俺は誰の事を思い出したんだ?


「もしかして、私の名に心当たりが?」

 その言葉で、イングウェイの脳内で一枚のガラスが割れるような感覚があった。

 頭の中の霧が、少しだけ晴れる。


 ああ、そうだ、確か――。……サクラか。サクラ・チュルージョ。カタナを持ったアホな剣士だ。

 

 記憶は濁流のように流れ出す。強烈な既視感があった。


「そうだ、俺は5人の仲間と冒険をしていた。サクラ、マリア、レイチェル――」


 そこまでだった。イングウェイは再び割れるような頭痛に襲われ、意識は闇に落ちていく。

 必死でもがこうと、手を伸ばす。


「ちょっと、大丈夫ですかっ! ねえ、しっかりしなさいっ!」


 思わず駆け寄るチュルージョ。彼女はイングウェイの横にかがみ、背に手をやり、さすろうとした。


 そのとき。


 むにぃぃい。


 もがくイングウェイの手は、チュルージョの胸に偶然触れる。

 胸は柔らかく、やさしく彼の手を包み込んだ。熱量が、腕を通じて流れ込んでくる気がした。


「ひゃぁっっ!」

 慌てるチュルージョをよそに、イングウェイは意識を右手に集中した。頭痛が収まるのが分かった。あれだけうっとおしかったあの頭痛が。

 じくじくと傷口を焼いたナイフでえぐられる痛みはすっと引き、暖かさが胸を満たした。


「サクラ、君は、――サクラ・チュルージョかい?」


「その名を、どこで……」

 サクラ・チュルージョは驚き、イングウェイの瞳を深く覗き込んだ。


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