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シーバット


 街を歩く吸血鬼が一匹。

 雨の中、吸血鬼が歩く。 そう、雨だ。ということはつまり、曇っている。

 太陽が苦手なはずの吸血鬼が、昼間に歩ける理由がそこにはあった。


 吸血鬼は厄介な魔物だ。太陽をはじめとする弱点は多いが、逆にそのせいで、姑息な立ち回りを覚えていく。永遠の時の中で積み重ねた知能、知識。

 経験を積んだ伝説の吸血鬼の中には、魔王すら手玉に取ったものがいたらしい。


「ステータス、オープン」


 名前:リーインベッツィ

 種族:吸血鬼

 年齢:451

 LV:81

 特殊能力:吸血、LVドレイン、血の誘惑、外観変移(シェイプシフト)、飛行…

 特技:闇魔術、吸血…


 真っ黒のウィンドウに、白抜きで書かれた文字。ステータスを現すグラフは、かつての面影がないほどに貧弱なものだった。(とはいえ、並の冒険者では束になってもかなわない程度の力はあったのだが)


「あー、ずいぶん貧弱になったものじゃのう。体だけはぴちぴちなのじゃが」


 その吸血鬼は、幼女の外見をしていた。ぴちぴちすぎて、胸はつるぺた。特殊能力でもう少し成長した姿に変身しても良いのだが、ムダに魔力を使いたくはない。



 リーインベッツィは、はるか昔にアサルセニアの地下に封印された、吸血鬼の祖ともいえる存在だ。

 才能はあったのだが、いかんせん血が苦手だったため、特殊な液体で魔力を保っていた。が、封印されてからは吸血はおろかその液体すら取り込めず。ステータスを削りながらも生きていたのが先日までの話。


 突然何者かに呼び出され、ふと気づくと粗野な盗賊らに囲まれていた。弱体化しているとはいえ、そこは腐っても吸血鬼。ただの盗賊が相手になるはずもなく。


 盗賊たちは数だけは多かったために、リーインベッツィは数名を殺したあと、闇魔術で不死者(アンデッド)に変えた。あとは楽して同士討ちを待つだけだ。

 腹が減りすぎて少しだけ血を飲もうとしたものの、ゾンビにした者の血は、腐って飲めたものではなかった。

 そうしてこうして、なんとか食料を求めて地上まではい出てきたのが、今日のお昼のこと。



 リーインベッツィは、ぴくりと鼻を鳴らす。

「この匂いは……! どこじゃ、どこじゃー?」


 角を曲がり、橋を渡り、見つけた家は妙にアルコールの香りが強い。

「ここは、病院……かのう?」


 まあいい、そんなことはどうでもいい。今欲しているのは――


 バタバタと忍び込み、ドアを開ける。

 そこには、


「あれー、なんでちゅか、この幼女はー?」


 やけに魔力袋の発達した、黒髪の幼女がいた。


「お前だって幼女ではないか! それよりそれ、そのグラスじゃ! ちょっと見せい!」

 リーインベッツィは少しむかついたが、それよりも黒髪の女の持っているグラスから目が離せない。

 夢にまで見た、濁った赤の酒。レッド・アイ。


「おお、よこせ! それはレッド・アイじゃろう!? わしの大好物、命の源なのじゃー!」

「むっ、まだあなたにアルコールは早いんでちゅ!」


 まっとうなことを言って断ろうとするレイチェルを、リーインベッツィは蹴り飛ばし、酒を奪う。

 ごくりごくりと飲み干す。軽い炭酸が喉を駆け上がってくる。下を向き、目をじっと瞑って抑え込む。


「っっぷっはあーーーー! うまーいっ!」


「あいってて、なんですかあなた、それが気に入ったんですか?」

「おう、もっとよこせ。さっきは思わず蹴り飛ばしてすまなかったな、腹が減りすぎて我慢が出来なくてのう。あ、わしは吸血鬼じゃ。400歳はとうに越しておるし、人間の法律など気にせんでよいからの。もっと酒をくれ」

「あら、年上なんでちゅの。なら問題ないですわね。一杯どうぞ」


 二人は意気投合した。


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