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ユーズ・ザ・マシーン


 次の日、俺はフィッツに相談した。


「――というわけなんだ、フィッツ。君はサクラの気持ちがわかるかい?」


 フィッツはあきれたようにため息を吐き、言った。


「まったく、女心がちっともわかってないにゃー、インギーは。いいかにゃ? 女の子は金にゃ。アクセサリとか宝石、札束でほっぺた叩けば一発にゃん」


 なるほど、やはりそうだったか。

「ああ、わかるぞ。俺も同意見だ」


 しかし問題が一つ。俺には、金が無かった。

 別段生活に困っているわけではないが、自由に使えるまとまった現金というものはない。

 しかし簡単なことだ、無ければ作ればいいだけなのだから。




「――というわけなんだ、マリア」


「なにが”というわけなんだ~”だよ、ばっかじゃないの?」

「辛辣だな、しかし君だって金は欲しいんだろう?」


 そりゃまあ、とマリアは言った。お金はあって困るものではない。

 特に彼女は鍛冶屋だ。素材や道具、燃料費など、ミスフィッツ内で一番の金食い部署でもある。

 マリアに話を持ってきたのは、そういう面でも簡単に協力が見込めそうだという打算もあった。


「マリア、これを見てくれ。作ってもらいたいものがある」

「ん、なに? これ、機械の図面かな」

 俺は簡単に書いた設計図を見せ、説明する。


「ここをこうして、ここは回転するようになっている。水はこちらから入れる」

「はー、よく考えたねえ、こんなの。でも、本当にうまくいくのかな?」

「うまくいくさ。ちなみにここはこういう仕組みだ」

「ほー、すごいな、面白いね、これ」


 俺の説明を聞きながら、マリアは感心しきりだった。


 作ろうとしている機械は、洗濯機だ。先日のキャンポテルーの件で、この世界に洗濯機が無いことは調査済みである。

 金を集めるのに必要なのは、汗や努力ではない。機会(チャンス)と、(ラック)だ。

 幸いこの世界にも生活魔法というやつは浸透している。水の心配はない。電源の問題は、充電式の魔石を使った。



 俺は何も、金を稼ぐ目的だけで、洗濯機を作ろうとしているわけではないのだ。


 忘れかけていたわけではないが、王からの依頼を思い出す。

 キャンポテーラ教の力をゆっくり、そして確実に削ぐには、信者を減らすのが一番だ。普通ならそれは時間がかかる道だし、あまりにも非効率だ。

 だが、洗濯板より優れた家電製品があったらどうだ? 便利さの誘惑に勝てる人間は、そうはいない。


 なにも信者を全滅させる必要はないのだ。キャポテラー教の力を弱めることができれば、それでいい。

 それに、あれだけ大きい組織だ、つぶして終わりなどもったいない。


「俺はこの道具を使い、キャンポテーン教を乗っ取ろうと思う」

「おお、それはとてつもなくでっかい目標だ」


 俺は計画をマリアに説明する。

 新たに別の宗教、そうだな、仮にウォッシャブル教とでも名付ける。その神様の名は、ガスロンコなのだ。ガスロンコ様は世に洗濯機を授け、それは家事を劇的に有利にする。


「つまり、胸が洗濯板である必要もなくなる、と?」

「察しがいいな、マリア」


 乗っ取りさえすれば、権力も金も思いのまま。札束風呂でも用意すれば、きっとサクラの機嫌も直るはずだ。


「ねえねえっ、札束風呂に入れば、ボクの胸も大きくなるかなっ?」

「ああ、もちろんだ。札束風呂は背が伸びる効果もあるからな。きっと胸も大きくなるぞ」

「決まりだね、イングウェイ。やっちゃおう!」

 マリアと俺はにんまりとあくどい笑みを浮かべると、互いの腕をぐっと握りしめた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 発明と普及で大儲けの流れ! でもなんとなく特許権とかこの世界には無さそうだから、機械の仕組みを理解されたら大きな商会とかが潰しにかかりそうな?
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