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わかってるんですのよ


 ダンジョンと普通の洞窟には、明確な区別がある。それは、『(コア)』の存在だ。


 この世界のギルドでは、魔石を核としてダンジョンが生まれるという説明を受けた。

 だが、それは事象の半分しか捉えていない。


 確かに高純度の魔力性物質は、周囲をゆっくりと汚染していく。汚染された物質はそれ自身も魔力線を出し始め、それが更に周囲を汚染し続ける。

 これがダンジョン化と呼ばれる現象だ。


 魔石や魔道具(マジックアイテム)などは確かに『高純度の魔力性物質』の代表だが、人や魔物、植物なども核になりうる。

 生物がダンジョン(コア)になるには、相応の魔力量、強さに加え、長期間その場を離れないことなど、色々な条件が必要だ。

 非常に珍しいことではあるが、決して前例が無いわけではない。


 そしてその成り立ちから、生物を(コア)としたダンジョンは、強力で攻略難易度も高いものが多い。


 暗く影のあるフィールドに包まれていたり、陰湿な悪い呪いを内包していたり。

 レイチェルを襲った記憶喪失(アムネジア)の呪いなどは、まさにそれに当てはまる。




 事情を説明すると、フィッツとキャスリーは深刻そうに顔を見合わせる。


「結局、解呪するには、ダンジョン(コア)をつぶしてダンジョンブレイクするしかないのかにゃん?」

「おそらく、それが一番早い。しかし――」

 俺は言葉に詰まった。


 この規模のダンジョンなどいくつもつぶしてきた。経験上、核となるモンスターの強さにも、ある程度見当はついている。

 二度の転生を経て魔力が落ちている俺でも、一対一で戦えば、まず問題なく勝てるだろう。


 しかし、皆を守りながら戦うとなると。


 迷っている俺を見て、我慢できずにキャスリーが言った。

「単刀直入に聞くわ、イングウェイ。わらわたちは、あなたの足手まといですの?」


 いや、そんなことはない。彼女らを安心させる言葉を吐くのは簡単だ。

 しかし、それでいいのか俺。


 気づくと、キャスリーのピースメーカーを持つ手が、かすかに震えていた。


「わかってるんですのよ、インギー。あなたがわらわたちの安全を一番に考えてくれているのは。でも、少し過保護過ぎじゃなくって? わらわたちは仲間であって、一方的に守られる関係じゃないんですのよ?」


 キャスリーのセリフに、フィッツも腕を組み、うんうんと頷いていた。


 ふっ、どうやら俺が間違っていたようだ。

 年下の女の子に教えられるとは、まったく、俺もまだまだだ。


「いいだろう。奥に進むぞ。だが、ボスは俺一人でやる。みんなはレイチェルを他のモンスターから守ってやってくれ」

「はい!」

「はいにゃー」


 さっきまでの張りつめていた空気は嘘のように消え、明るい声がダンジョンにこだました。


「行くぞ、レイチェル!」

 俺は隣で飲んでいるレイチェルに声をかける。


 レイチェルの記憶喪失(アムネジア)の呪いはさらに進んでいる。私たちの記憶や事情は失われているものの、死霊術(ネクロマンシー)は問題なく使えているようだ。

 この様子からすると、どうやら最近の記憶から順に失われているのだろう。


「あ、はいー、待ってください、ついていくからもう一本ビールくださーい。ひっく、うまー」


 ……やはり普段とあまり変わらない気がしてきた。

 ただ単に酔っているだけだという可能性も、いまだ捨てきれない。

 

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