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ショッピング・ロード


 宗教団体の潜入から抜け出した俺たちは、とりあえず商店街を歩いていた。

 ちょっと考えたくらいでどうなるわけでもない。帰って皆に相談してみよう。


 その前に、レイチェルの提案で商店街を歩きながら帰ることになった。たまには羽を伸ばしたいということだが、お前はいつも伸ばしっぱなしだろう。まあいいが。

 考えてみれば、レイチェルと二人きりというのは久しぶりだな。


「えへへ、イングウェイさん、私もインギーって呼んでもいいですかー?」

「好きにしろ」


 レイチェルはもたれかかるように腕を組んできた。足取りはしっかりしているようだが、まだ酔っているようだ。まったく、一人で歩けないほど飲むなと、いつも言っているのに。


 歩くうちに道は白く整備された石畳に代わり、王城がずいぶん近くに見える。

 食料品の並ぶ市場はよく見て回るけれど、よく考えたらこっちの通りは珍しい。

 通りには服やアクセサリといった類の店が並んでいる。アクセサリといっても魔力のこもったやつではなく、ただの純粋な装飾品だ。



「まるでデートみたいですねー」

 レイチェルはウキウキで、さらに腕に絡みついてくる。胸が当たって歩きにくいが、言わないでおこう。

 なにせ、女性に胸の話は禁句なのだ。デリケートな話題である。

 特にマリアあたりに魔力量の話なんて振った日には、夕食のスープの具に指がごろごろ入っているなんてことになりかねない。


「あ、インギーさん、あれ食べたいですー」

「ん。なんだこれ、焼き鳥か?」

 どうやら鳥のひき肉を丸めて、焼いたものらしい。大きな串に、肉団子が三つほどついている。

「あ、カップルサービスがあるそうです、一つ肉団子プラスですって!」


 ふむ、買ってみるか。


「へい旦那、べっぴんな嫁さん連れてるねえ。ちょっと待ってな、すぐ作るぜ」


 渡された串には、確かに団子が四つついていた。ついてはいたのだが……


「ぐびり。うん、ぬるいビールはまずいですねー。まあ飲みますけど。 さて、これ、どうやって食べたらいいんでしょう……」

「うーむ、困ったな。 ぐびり。焼き鳥にはビールだと昔先輩に言われたのだが、やはり文化が違えば勝手も違うな」


 紙袋で渡されたので気付かなかったが、四つの団子は串全体を覆い隠すように連なっており、持ち手もない。


「そうだ、こうすればいいんですよ!」

 レイチェルはぱんと手を叩き、おもむろに団子にかぶりつく。そして少し行儀が悪いが、俺の方に団子を突き出してきた。


「あ、なるほど」

 俺は逆側から団子をもぐもぐと食べていく。

 レイチェルと目が合い、少し気まずい。顔が赤いのはきっとアルコールのせいだろう。


 もぐもぐと食べ進めるうち、俺たちは二つ目の団子に入る。

 二人の顔がさらに近づく。



「あー、あのおにーちゃんとおねーちゃん、ちゅーしようとしてるー!」


 ごほ、むぐ、げほっ、ぐはっ。


 唐突に幼女の声がして、驚いた俺たちは串で喉を突きかける。


「こら、アヤ、しーっ! 青春のじゃましちゃいけません!」

 お母さんが幼女を手を引いて、小走りで去っていく。


 ふと見回すと、幾人かがぱっとごまかすように不自然に目をそらす。

 いかん、ムダに注目されてしまっていたようだ。



「……いんぎーさん、帰りましょっか」

「ああ、そうだな」


 俺たちは小走りでその場を後にする。二人の手は、いつの間にかしっかりと握られていた。


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