名誉の道行き
サクラが先に進んでいくにつれ、戦いの音がどんどんと大きくなる。
最初は剣戟の音かと思った。しかし、それにしては少し鈍い気がする。
モモフクをぐっと握りしめ、そして肩の力を抜く。
――見えた!
朱に染まった毛皮を持つ、恐るべき怪物。獅子の顔に鷲の翼。蛇の尾。ギザギザ・マンティコアだ。
そして、必死で戦う猫耳の女性。輝くような銀髪を振り乱し、舞うように敵の攻撃を弾いている。
「やあああぁぁーーっ!!」
モモフクの美しい刃が弧を描き、ギザギザ・マンティコアの右腕から青い血がたらりと垂れる。
ぐぎゃー、ぐるるるう。
「っ、こいつ、強い!」
斬りつけた腕は、まるで鋼鉄のような感触だった。
「大丈夫ですかっ、猫耳のあなた!」
「は、はいにゃん! だいじょうぶです、ありがとうにゃん!」
猫耳娘はくるくると回りながら、サクラの横に着地する。身軽さは相当のようだ。
そして、妙に大きな腕。
サクラは最初、ミトンでもしているのかと思った。ダンジョンの中は広く、腹も減る。
イングウェイ達のようにもしこの娘も飲んでいたとしたら、鍋の一つもつつきたくなるのも当然。そのためのものだろう、と。
しかし。
音もなく、ミトンから複数の刃を持つナイフが現れる。――違う、それは、手なのだ。
ナイフでなく、爪。それも、伸縮は自由にできるようだ。
「あなた、もしかして獣人族?」
しかし悠長に話している暇はない。ギザギザ・マンティコアは鍾乳石のように太い牙からよだれをたらし、こちらへと向かってくる。
まずい、よけきれない。
サクラは思い切って前に出る。弾き飛ばされたものの、相手の攻撃もずらすことに成功し、ケガはない。
すぐに立ち上がると、猫耳娘に声をかける。
「なにか武器はないんですかっ!? こいつに効くような!」
「たぶん、おねーさんの剣が一番マシそうにゃん。みーが引き付けるから、どてっぱらに突き刺すにゃん。間違っても切りつけるんじゃにゃいなん、痛っ! ベロかんだ。 とにかく刺すの!」
言うが早いか、猫耳娘はギザギザ・マンティコアの正面に立ち、とびかかる。
ぎゅるるる、ふぎゃー!
二人はもつれ合いながら、転がりまわる。
「今だよ! にゃん!」
ギザギザ・マンティコアにのしかかられた猫耳娘が、全身のバネをフルに使い、どてっぱらに蹴りを入れる。
体重差はあるものの、魔力で強化された筋力による蹴りだ。
もろに腹に食らったギザギザ・マンティコアは、倒れこそしなかったものの、ふらつきよろめいた。
そのわずかな瞬間を狙い、サクラは飛び出した。狙うのは、たてがみの直下。斜めに喉を狙い、モモフクを突き立てる。
固い革の手ごたえを感じる。サクラは腰を入れて力を込める。ぐっと押し込むと、ずぶりと一気に刃が押し込まれる。
ギザギザ・マンティコアは数度うなると、太い腕で空をかき、力尽きた。
「はひー、死ぬかと思いました。大丈夫ですか、猫さん」
「助けてくれてありがとう! みーは、フィッツ・マクバーニィにゃ。お姉さんはなんでこんなところに?」




