表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/203

名誉の道行き


 サクラが先に進んでいくにつれ、戦いの音がどんどんと大きくなる。

 最初は剣戟の音かと思った。しかし、それにしては少し鈍い気がする。


 モモフクをぐっと握りしめ、そして肩の力を抜く。



 ――見えた!

 朱に染まった毛皮を持つ、恐るべき怪物。獅子の顔に鷲の翼。蛇の尾。ギザギザ・マンティコアだ。

 そして、必死で戦う猫耳の女性。輝くような銀髪を振り乱し、舞うように敵の攻撃を弾いている。


「やあああぁぁーーっ!!」

 モモフクの美しい刃が弧を描き、ギザギザ・マンティコアの右腕から青い血がたらりと垂れる。


 ぐぎゃー、ぐるるるう。


「っ、こいつ、強い!」

 斬りつけた腕は、まるで鋼鉄のような感触だった。


「大丈夫ですかっ、猫耳のあなた!」

「は、はいにゃん! だいじょうぶです、ありがとうにゃん!」


 猫耳娘はくるくると回りながら、サクラの横に着地する。身軽さは相当のようだ。

 そして、妙に大きな腕。

 サクラは最初、ミトンでもしているのかと思った。ダンジョンの中は広く、腹も減る。

 イングウェイ達のようにもしこの娘も飲んでいたとしたら、鍋の一つもつつきたくなるのも当然。そのためのものだろう、と。


 しかし。

 音もなく、ミトンから複数の刃を持つナイフが現れる。――違う、それは、手なのだ。

 ナイフでなく、爪。それも、伸縮は自由にできるようだ。


「あなた、もしかして獣人族?」

 しかし悠長に話している暇はない。ギザギザ・マンティコアは鍾乳石のように太い牙からよだれをたらし、こちらへと向かってくる。

 まずい、よけきれない。

 サクラは思い切って前に出る。弾き飛ばされたものの、相手の攻撃もずらすことに成功し、ケガはない。

 すぐに立ち上がると、猫耳娘に声をかける。


「なにか武器はないんですかっ!? こいつに効くような!」

「たぶん、おねーさんの剣が一番マシそうにゃん。みーが引き付けるから、どてっぱらに突き刺すにゃん。間違っても切りつけるんじゃにゃいなん、痛っ! ベロかんだ。 とにかく刺すの!」


 言うが早いか、猫耳娘はギザギザ・マンティコアの正面に立ち、とびかかる。

 ぎゅるるる、ふぎゃー!

 二人はもつれ合いながら、転がりまわる。

「今だよ! にゃん!」


 ギザギザ・マンティコアにのしかかられた猫耳娘が、全身のバネをフルに使い、どてっぱらに蹴りを入れる。

 体重差はあるものの、魔力で強化された筋力による蹴りだ。

 もろに腹に食らったギザギザ・マンティコアは、倒れこそしなかったものの、ふらつきよろめいた。


 そのわずかな瞬間を狙い、サクラは飛び出した。狙うのは、たてがみの直下。斜めに喉を狙い、モモフクを突き立てる。

 固い革の手ごたえを感じる。サクラは腰を入れて力を込める。ぐっと押し込むと、ずぶりと一気に刃が押し込まれる。


 ギザギザ・マンティコアは数度うなると、太い腕で空をかき、力尽きた。


「はひー、死ぬかと思いました。大丈夫ですか、猫さん」

「助けてくれてありがとう! みーは、フィッツ・マクバーニィにゃ。お姉さんはなんでこんなところに?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ