ハイスピード・ダンジョン
こうして、ギルド『ミスフィッツ』が発足した。
冒険とはスピードだ。勢いだ。
というわけで、ギルド発足の祝いをすることになった。
場所はもちろん、ダンジョン内だ。
「うっしゃあっ、ここから私たちの冒険譚が幕をあけるのですねー!」
「マリアも来れればよかったんですけどー。なんか申し訳ないです」
ここは王国の北西にあるダンジョンの一つ、フリー・ダム。
入り口に立つ衛兵からは、山盛りの荷物が初心者丸出しに見えたらしい。
「ずいぶんとまあ、たくさんのポーションを持っていくんですね」
「いえ、実家が病院なもので、おほほ……」
もちろんポーション瓶の中身は、酒だ。
ほら、さっさといくぞ。
俺たちは暗闇の中、階段を下りていく。
中は、その昔に(前々世で)入ったことのあるダンジョンと大差なかった。
洞窟内は明かりはないのになぜか明るく、迷路のような構造になっている。見通しは良いはずだが、10メートルも先は漆黒の闇で、どんなモンスターが近づいてくるかわからない。
「早く飲みませんか? ビールが温くなってしまいます」
「そうなったらインギーの魔法で、また冷やしてもらえばいいじゃないですの」
おい、人を携帯冷蔵庫みたいに使うんじゃない。
と思ったら、サクラが大声を出した。
「いんぐぃーー? ずるい、いつの間にそんなあだながついてんですかっ! 私だってそんな親し気な呼び方したことないんですよ、私も呼びます、インギーさんって!」
あ、ゴブリンだ。
ごぶ!? ぶきぃーっ!
こん棒を取り出したゴブリン。奴が鳴くたびに暗闇の中から次々とゴブリンの群れが押し寄せる。
「任せてください、インギーさん。ここは私の死霊術でっ!
言うが早いか、どこからか骸骨の剣士が現れ、ゴブリンたちを屠っていく。そうだ、レイチェルのお父さんだ。
「ああっ、レイチェルまでしれっとインギー呼びにっ!?」
焦るサクラ。いいから戦え。
骸骨とゴブリンが激しく打ち合う。がちぇんっ、きんっ、ばきっ。
ゴブリンの数は多く、骸骨の脇を3匹のゴブリンがすり抜ける。
俺が始末しようとして前へ出ようとすると、
ぱぱんっ、ぱんっ。
ぐへぇっ、ごぶぶっ!
銃声とともに、ゴブリンが倒れていく。
ピースメーカーを構えた女銃士、キャスリー・レノンフィールドだ。
うん、さすがだな、良い腕だ。
「これくらい楽勝ですの」
金髪をさらりとかきあげ、自慢げなキャスリー。
手にはすでに梅酒を持っている。こないだ俺が教えてやった、炭酸割りだ。
ごくごくとのどを鳴らし飲んでいるキャスリーを見て、俺も酒がのみたくなった。
「この調子で倒しながら進むぞ」
「「「おーっ!!」」」
ビールや梅酒片手に進む俺たちミスフィッツ。サクラだけは飲んでいない。真面目な奴だ。
一応差し出したのだが、
「いえ、私は前衛だからやめときます!」
だそうだ。
酒には痛みを抑える効果もある。けがをしたら使ってやろう。
さて、すこし真面目に魔力の道を感知する。
ある方向から冷たい隙間風が吹いてくるような感覚がある。
強敵がいるのだろう。きっとボスだ。絶対そうだ。
俺も酒が回ったままの状態で、ダンジョンをどんどん下りていく。
警戒なんて、素面のサクラに任せておけばいいんだ。




