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魔弾の射手


「彼女は俺が責任をもって、幸せにしてやろう」

「えっ、イングウェイ様、それって……。ぽっ」

 顔を赤くするキャスリーに、俺は冷静に突っ込んでおく。誤解は早めに解かないとめんどくさいからな。


「キャスリー、何を勘違いしているかしらんが、お前は明日からうちのギルドで引き取ることになった」


 エドワードも、重い口を開いた。

「キャスリー、巣立ちの時だ。この家を出て、イングウェイ殿とともに行くといい」


 キャスリーはびくんと震え、姿勢を正した。いろんな感情がごちゃ混ぜになった顔をしている。不安、怯え、安堵、諦め。

「やはり、学校を退学になったから? わたくしはレノンフィールド家にふさわしくない、と」


 説明に詰まるエドワードに、俺は助け舟を出す。

「お前を守るためだ、キャスリー。今回の件で少し身を隠したほうがいいという判断でな。それとも、護衛が俺では不安か?」


「い、いえ、そういうわけでは」

「なら、決まりだな」

「でも……」


 煮え切らないキャスリー。エドワードは大きめの箱を取り出し、開けた。

 これは……、どこで一体これを?


「これは、お前の母親の形見の武器だ。銃という。魔法を込めて引き金を引くと、打ち出せる。これをお前に預ける」


「すごい。でも、こんな大切なものを?」

「大切なものだからこそだ」


 キャスリーはしばらく銃を胸に抱いていたが、やがて、力強く頷いた。


 感動のシーンではあるが、俺の脳みそは、その銃を見た瞬間、思考を停止していた。

 魔導銃。魔術が込められた弾丸や、魔力そのものを弾として打ち出す武器だ。


 日本で創造されたファンタジーという世界観の中では、銃は地球の科学の産物として扱われていた。だが数は少ないものの、銃や砲自体は、前々世でも魔法武器として使用されていた。魔法にしろ火薬にしろ、照準を付けて飛び道具を発射する用途の武器なら、似たような形になるのはむしろ自然なことだろう。

 俺が驚いた原因は、そんなことではない。



 その銃は、俺が良く知っているものだった。

 M1873、コルト・シングルアクション・アーミー。ピースメーカーとも呼ばれる、リボルバーだ。


 なぜ、この銃がここに?



 翌朝、俺たちは王都へ戻るため、出発した。


「お父さまー、行ってきますですのー!」

 キャスリーは何度も振り返り、大声で叫ぶ。エドワードは苦笑いを浮かべながら、いつまでも手を振っていた。


 ようやく屋敷も見えなくなり、キャスリーも少しは大人しくなるかと思いきや、今度は銃を構えて試し打ちを始める。

「急に敵が出てきたら大変ですの!」

 ああ、その心構えは大切だ。心だけで、体は油断だらけだがな。


 銃の操作方法は、意外と単純らしい。魔力を手からグリップに送り込んで引き金を引くと、魔力で精製された弾丸が飛び出す。

 しかも、込めた魔力の属性により、弾丸の属性も変わるようだ。


 なかなか手の込んだ武器だが、マリアに複製させてみようか? オリジナルは、いったいどこの誰が作り出したのだろうか。


 道中出会った魔物たちに試し打ちをする。


 ごぶー!

 ぱんっ、ぱんっ!

 ぐえ、ごっふー。


「すごいですの! ゴブリン程度なら一撃ですわね」


 俺は冷静にゴブリンの死体を観察する。

 なるほど、意外と属性が乗るというのは便利だな。そして弾速も狙いも素晴らしいが、貫通力はいまいちか。

 いや、違うな。これは魔法の弾丸だ。きっと貫通力なども、込めた魔法や魔力の質でコントロールするのかもしれない。

 あとはもう一つ確かめたいことがある。俺はキャスリーの胸を揉んだ。


 もぬんもぬん。


「きゃあ、な、なにするんですの!」


「気にするな。魔力残量を詳しく見ているだけだ。……なるほど、やはり消費魔力がかなり少なく抑えられている。すごい武器だな、これは」


「え、そうですの……?」


 母親の形見を褒められて、よほど嬉しかったのだろうか。キャスリーは真っ赤な顔をして照れていた。


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