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エドワードと過去のごたごた


 俺はエドワードに聞いた。

「なぜいきなりこんなことを?」


 エドワードは答えた。

「失礼なのは承知の上ですが、確かめたかったのです。イングウェイ殿が、我が娘をあずけるのにふさわしい男かどうかを」


 なんとなく察してはいたが、当たって欲しくはなかった。まったく、こっちの世界に来てから、いろんなことに巻き込まれっぱなしだ。


「で、なぜ俺なんかに預ける? 自分で言うのもなんだが、俺の身分は一介の冒険者だ。ランクだって低い」

「ランクが低い冒険者にも、素晴らしい人物はおりますぞ、貴公のように。イングウェイ殿は魔族の攻撃の中、王城に乗り込み、王を助けた。それだけの度胸と腕がある」


 理由になっていないが、信用はされているようだ。少なくとも、強さという点においては。

 エドワードは続けた。

「メアリーの家はかなりの上級貴族だ。経緯はどうあれ、殺しておいてただではすまないだろう。だからといって、下手にかばうと今度はレノンフィールド家全体の問題になってくる」


 エドワードの苦しそうな表情を見ればわかる。彼は我が身可愛さにキャスリーを引き渡そうとしているわけではない。彼は、その地位ゆえに悩んでいた。

 自分ひとりの身で済むのなら、彼は例え相手が誰であろうと、理不尽な要求には毅然とした態度で立ち向かうだろう。エドワードとは、そんな男だ。

 しかし、家の問題となると、他の家族にも迷惑がかかる。いや、家族だけではない。メイドや庭師、彼の領地で暮らす農民たち。様々な人が影響を受けるだろう。


「キャスリーを罪に問うことはできん。決闘自体は成立しているからな。しかし、このままレノンフィールド家に置いておくと、何かと不都合だ。そして、王からの命令があった。イングウェイ殿に、娘を預けろと」


 だから、なぜそこで俺が出てくるのだ。まったく。


「なぜ王が、そこまで指示をする。追放まではまだしも、俺に預けるなどと。いったい何者なんだ、キャスリーとは?」


 察しがよいな。そう前置きしてから、彼は語った。

「キャスリーは、王の娘だ」


「なんだって? それを本人は知っているのか?」


「もちろん知らないし、知らせるつもりもない」


 エドワードは昔話をしてくれた。まだ若いころ、王とともに冒険者をしていて、各地のダンジョンを回ったこと。

 そのときにパーティーの回復役だった僧侶と王が恋に落ち、キャスリーを身ごもったこと。

 そして、その後の悲しい別れ。


 政争に巻き込まれるのを防ぐため、王はエドワードにキャスリーを預けた。そして、レノンフィールド家の娘として育てたのだ。


「言っておくが、キャスリーのことは本当の娘と同じように思っているし、そう接してきたつもりだ。リチャード王のことなど関係なく」

「エドワード、あなたは……」


 語り終えたエドワードの目に、うっすらと光るものが見えた。

 もしかして、王と恋仲だったという僧侶についてのことだろうか。

 仕方ない。誰にだって、打ち明けられない想いの一つや二つはあるもんさ。


 俺は、キャスリーを引き受けることに決めた。


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