木刀・オブ・デストラクション
手紙を読んだエドワードは、眉間にしわを寄せて、かなりの間沈黙していた。
眉間にしわを寄せ、天を仰ぎ、そして、俺を睨む。
涼しい顔をして受け流しておくが、あまりいい気はしない。
夕飯までこのままなのだろうかと俺が思い始めたころ、エドワードはやっと、重たい口を開いた。
「イングウェイ殿。あなたは、王とどういう関係で?」
「王城が襲われた時に、城へ突入して、たまたま王を助けただけです」
俺は簡潔に一言で説明する。
「そうですか」
エドワードは手紙を懐にしまうと、俺に言った。
「イングウェイ殿、頼みがあります」
「私にできることなら」
別に断る理由も無い。
「では、わしと剣で試合をしていただきたい。ああ、そちらが得意な武器があれば、剣でも槍でもかまいませんが」
「……は?」
ちょっと待て、おっさん。話が見えん。
「レノンフィールド侯、理由を教えていただいても?」
「娘の恩人に大変無礼だとは思うのですが。すぐに用意いたしますので」
話を聞け。
結局すたすたと場所を移すエドワードに流される形で、屋敷内の訓練場へと移動する。
エドワードは上着だけを脱ぐと、適当な木刀を手に取り、正眼に構える。
「さ、どうぞ」
「どうぞって言われても、俺にはあなたと戦う理由が無い」
「そうですか。では、すぐに作りましょう」
言うが早いか、エドワードは一気に間合いを詰めると、俺ののどに向かい突きを放つ。
確かに鋭いが、殺気もこもっていないのはバレバレだ。俺は右足を軽く引き、剣をかわしつつエドワードの利き手を掴む。
人間の腕は、体に対して外側に曲がるようにはできていない。単純だが効果的な拘束術だ。
が、エドワードはエドワードで、さらに上手だった。
というより、さすが武門の頭領というべきか。
エドワードは片手だけで俺の体を浮かせると、そのまま蹴りはがそうとしてきたのだ。
「おい、さすがに強引過ぎだろう」
俺もスイッチを切り替え、魔力を高める。筋力を増大させ、エドワードの太い足をがっしりと受け止める。
「む、なかなかやりますな。では、これでっ!」
エドワードが連続で剣を振る。
扇風機かお前は。だいたいお前、好きな武器を――とか言ったくせに、素手の俺に対してムチャしやがる。
しのげなくはないだろうが、さすがに苦しい。
やれやれ、この世界の男たちを舐めていたな。鍛え上げた筋肉にはしっかりと魔力が乗っている。
なかなか厄介な戦い方だ。
俺は腕に魔力を集め、青白い盾を作る。木刀を一瞬でからめとると、次の瞬間左手で光の縄を作り、エドワードを≪拘束≫した。
今度は、驚いたのはエドワードのほうだった。
「なっ、これは、魔法? しかもこんなに素早く、無詠唱で使用するとは」
「気が済んだか? 試合というなら、これで勝負はついていると思うがね」
「ああ、わしの負けだ。認めよう」
俺は拘束を解く。ふっと光の輪が消えた。
「今のは魔法ですか? その、失礼した。あなたのことを男だと思っていたのだが」
俺は深くため息をつき、頭を抱えた。
「男だよ、れっきとした男だ。なぜ魔法を使えるのかは、知らん。そっちで考えてくれ」




