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復興、アサルセニア


 こうして、マリア・ラーズは、無事ゾンビになって復活した。

 平和な日常が戻ってきたわけだが、当然長くは続かない。魔族の脅威は残っているのだ。


 冒険者ギルドも再編が進み、モンスター退治やダンジョンの調査依頼などが急増したらしい。

 俺たちのような戦闘特化型のパーティーには美味しいことだが、さすがに危険な依頼が増え過ぎて、新米冒険者たちの死亡率も急増していると聞いた。

 実際俺たちも、新米冒険者の護衛依頼などを引き受けたりもしている。


 うちで一番忙しくなったのは、レイチェルだろう。

 ケガ人の治療に、ポーションの作成。加えて、マリアの体のメンテナンス。


「ゾンビの体は、魔力で定期的に浄化してやらないと腐りやすいんですよ」

「なるほど、新陳代謝が滞るせいか」

「え? ちんちんでんしゃ?」

「新陳代謝、だ。身体のさいぼ…身体を作る部品が、どんどん入れ替わっていくことだな。マリアは死んでいるから、古い部品がそのままのこり、腐っていく」


 ん? 気付けばマリアが、ドン引きという表情で俺を見ている。

 なんか変なこと言ったか、俺?


「なっ、なんでそんなこと知ってるんですか、イングウェイさんっ!? それ、死霊術師(ネクロマンサー)業界でしか知らないよーな極秘情報なんですっ、企業秘密ってやつですよ!?」

「……そんなこと言われてもな、常識だろ。少なくとも前に住んでいた国では、当たり前のように子供でも知っていた」


「はぁ、もういいです。イングウェイさんと話していると、自信がなくなっちゃいます」

 レイチェルはため息をつきながら、マリアの体に魔力を流している。

 柔らかな聖なる光が、ゆっくりとマリアの体を循環していった。


「ねえ、ボクも一応エルフだし、聖属性の魔力も組めるんだけどさ。自分じゃできないの?」

 治療を受けていたマリアが、不思議そうにレイチェルに聞いた。

 確かにもっともな疑問だ。そもそも治療が定期的に必要だということは、レイチェルがいないとマリアの命まで危ないということになる。それはまずい。


 しかし、レイチェルは首を横に振って言う。

「ムリね。魔力量の問題じゃなくて、魔力で浄化する場所の問題だもの。体の隅々まで行きわたらせないといけないし、そのためにはやっぱり医術の知識がいるわ」


 腐る、そして隅々まで……?


「レイチェル、ようするに腐らないようにすればいいんだよな」

「え? ええ、そうですけど」


 俺は魔導冷蔵庫からビールを取り出す。あの混乱でも盗まれず壊れなかった、幸運のアイテムだ。


「これを飲んだらどうだ?」


 マリアとレイチェルは意味がわからず、顔を見合わせた。

 あ、もしかして。俺は聞いてみた。


「なあ、なんで物って腐ると思う?」


 マリアがすぐに答える。

「そんなの、闇属性の魔力が自然発生して、生命の元の聖魔力を食べちゃうからでしょ? 子供でも知ってるよ」

 隣のレイチェルも、うんうんと頷いている。


 やはりそうか。それは、間違った知識だ。


 俺は優しく彼女らに教えてやる。

「いいか、物が腐るのは、空気中にいる小さな生き物が、食べ物をエネルギーにして毒素を発するからだ。じゃあ、腐らないためには、どうするか。その小さな生き物を殺すとか、寄せ付けなければいい。そして、奴らはアルコールに弱い。俺の前にいた国では、病気の予防などにも使われていた」


「えっと、つまり?」


 俺はテーブルにグラスを置く。こん、と軽快な音。

 ビールの瓶を開け、とくとくとついでいく。かきむしるようなしゃーしゃーという音は、炭酸ガスのせいではない。早く飲ませて欲しいと心がきしんでいる音だ。


「酒を常時愛飲していれば、問題なかろう」


「すごい、今までの死霊術師(ネクロマンサー)たちが考え抜いてもわからなかった疑問の答えを、こんなにあっさりと。天才の発想だわ」

「すごいよ、これならボク一人でもできるし、簡単だ! お酒がない世界なんてないから、旅にだって出られる!」


 おい、あんまり浮かれるな。前例がないことをするのなら、慎重にやらなければ。


「今日はこれしかないが、明日からは米焼酎を飲むと良いだろう」

「え、それはなんで?」


「まず第一に、ビールよりもアルコール度数が高いからな。より腐りにくくなるはずだ。そして安価なこと。温めても常温でもいけるから、寒かったり旅に出た時も飲みやすい。あとは、ウイスキーは色がついているものが多いからな。縫い目を消毒するときは、無色の焼酎の方が見た目にもいいだろう? 米を使うのは、その――」

 女性だからな。匂いにクセがある芋よりは、万人受けする米が良いだろう。俺はどんな匂いだろうが、気にしないのだが。

 最後の一言はなんとなく気まずくて、飲み込んでしまった。


 気付くと、マリアは両目に涙をためていた。

「ありがとう、イングウェイさん。本当に、何から何まで……」


 やれやれ、泣き虫キャラがもう一人増えてしまったな。


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