ドロー・ミー
こんこんこん。
古城の扉をノックする男。もちろんわれらがイングウェイ・リヒテンシュタインだ。
返事はない。当然だ。小さいとはいえ城なのだ、二人で住むには広すぎる。
とはいえ主は他ならぬ大魔術師、ドロシー・オーランドゥだ。ノックはしたのだ、勝手に入れば魔力探知に引っかかるだろう。
そう考えて気軽に足を踏み入れる賢者イングウェイ。
というわけで、三重にかけられていた魔法錠をあっさり解呪し、すたすたと廊下を歩いていく。
廊下を進むうち、バタバタと騒がしい音が聞こえてきた。
見慣れた研究室の扉を開けると、ちょうどローブの裾に躓いたドロシーがひっくり返っていたところだった。
「ふぎゃあっ。いったー」
「ドロシー、一体君は何をやってるんだ?」
あきれ顔でドロシーを見るイングウェイ。
「それはちょっとー、えーと、あー、……若返りの術とかを作ってました。ごめんなさい」
「やっぱりか。若返らなくても、君は十分魅力的だ」
「え、マジで? えへへー。っていやいや、嬉しいけどさ。でもほら、お肌とか、サクラちゃんとかと比べると酷いんだよ? あのまま一緒に暮らしてたら、絶対比べられちゃうじゃん」
「わかってる。だから来たんだ。それと、一つ渡し忘れたプレゼントもある。悪いがインベントリを開いてくれるか?」
「え? あ、うん」
何のことかわからず、戸惑いつつインベントリを開く。
イングウェイが手を突っ込み、中から取り出したのは、なんとイングウェイ(福岡Ver)の肉体だった。
「は? え、これ、どうしたの?」
「向こうから持ってきたんだ。今の体も悪くはないが、どうも魔力の流れが雑でね。やはり慣れた体が一番だ。ああ、若返りの薬を作るなら、二人分頼むよ」
「ダメよそんなの! あなたまで付き合うことないじゃない。これは私の問題よ」
「いや、二人の問題だろう? 俺にとっては肉体の年齢よりも、君と過ごす時間が減るほうが問題なんだけどね」
そういうと、イングウェイはドロシーを抱き寄せ、唇を重ねた。
「いいの? 若い子たちに未練ない? 私、ずーっと待ってたんだから。最低一年は離さないわよ」
「それもわかってる。皆にはしばらく戻らないと、ちゃんと言ってきた」
「ううー、うええーん、いんぐうぇー」
泣きじゃくるドロシーを抱きしめたまま、優しく頭を撫でるイングウェイ。
◇◇◇◇◇◇
「やれやれ、熱いのう。じゃまものはしばらくミスフィッツの世話にでもなるかのー」
買い出しの荷物を扉の前に置くと、リーインベッツイはばさりと漆黒の翼を広げた。
すっかり色ボケしてしまった親友の姿に少し寂しさを感じつつ、それでも心からの祝福を送りながら。
おしまい。
ここまで読んでくれて、ありがとうございました。
制作に付き合ってくれた皆さんも、本当に感謝しています。ずいぶん寄り道もしたけれど、これで完結です。
皆さんも良きお酒ライフを。




