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20/203

4:2:1


 戦いは激しさを増す。

 キョニーは飛び回りながら、炎系や風系呪文を連打してくる。

 俺の持つ剣で呪文は霧散していくので、避けるまでもない。魔道具による効果で打ち消しているため、魔力操作もいらないし、体力的な消耗も少ない。

 近接戦闘用に作ってもらった剣だが、長期戦にも向いているようだ。

 マリアがこんな腕のいい鍛冶屋だったとは。――レイチェル、頼むぞ。なんとか生き返らせてくれ。


「ちいっ、小癪な!」

 焦れたキョニーが、魔力マジックアローを連打してくる。

 剣で打ち消せる範囲は打ち消し、漏らした矢は素手で受け止め、握りつぶした。

 鈍い痛みが走ったが、そんなことよりも、怒りが大きかった。

「こんなものか、魔族の力は」

 この程度のやつに、マリアは殺されたのか。この程度のやつから、俺はマリアを守れなかったのか。

 怒りの矛先は、情けない自分自身へだった。


 唐突に、ばんっと大きな音を立てて、扉が開かれた。

 優男の魔法剣士、斧をもったごつい戦士、そして女魔術師と女僧侶。ごく一般的な構成の四人パーティーだ。


「王様、お怪我はありませんかっ!」

「おお、勇者様だ」

「勇者パーティーが来たぞ、これで助かった!」


 なるほど、あの優男の魔法剣士が勇者か。

 女魔術師がさっと王を庇う位置に移動し、防御呪文を展開していく。僧侶も兵士の治療に入っている。

 迷いのない、よい動きだ。


 勇者だろう男が、俺に駆け寄り、話しかけてくる。

「貴様、ただの冒険者か? いくら緊急時だからといって、城内、しかも王の間に入り込むなど何を考えている? 王を暗殺でもして、どさくさに魔族に取り入るつもりか?」



 不愉快な気分だった俺は、ろくに考えずに答える。

「バカなことを言うな、それよりあの魔族は俺の親友の仇だ。手を出すな」


「なるほど、読めたぞ。他の兵士らが戦っている間に魔族のトップを狙い、手柄を独り占めする気だな」

「そんなつもりはない」

「いいや、信じられないな。だいたい俺たちのパーティーは、城の門から順にモンスターを倒しながら来たんだ。どこで俺たちを出し抜いた? ここにいることこそが、お前たちがズルをした証拠だろう」


 ああ、そういや≪透過(シースルー)≫を使って、城壁なんかすり抜けたからな。そういう意味では、確かに出し抜いたと言えるだろう。

 しかしこの状況で、魔法で追い抜きましたなんて正直に言うわけにもいかない。


「お前たちに教える義理はない」

「怪しいな、貴様」


 勇者はなぜか俺にむかって切りかかってきた。おい、相手が違うぞ。

 とっさに剣で受け止める。ききんっと固い音がする。

 冷静に考えて、この混乱の中で王の間に武器を持った見知らぬ魔術師がいるのだ。いくら魔族と戦っていたといっても、素直に信じてもらえるわけがない。特に魔族なんて、だましだまされで生きているやつらだ。こいつの行動も無理がないところではあるのだが。

 とはいえ、面倒なことは間違いない。


 適当に勇者をあしらいながらサクラを見ると、あっちは巨漢の戦士に追いかけられていた。


「ちっ、すばしっこい女め。逃げるなっ!」

「だって捕まったら、私のことをぶつじゃないですかー!」


 ぶんぶんと斧を振り回しているが、動きだけ見れば、サクラの敵ではないな。

 実際に彼女はぴょいぴょいと余裕をもって斧を避けている。カタナを抜いていないのは、サクラなりの「敵じゃない」アピールだろう。



 そのときだ、キョニーが黒い≪魔法矢(マジックアロー)≫を放つ。闇属性の矢は、毒を付与されていることが多い。

 まずいな。

 俺は勇者をとっさに突き飛ばし、≪魔法盾(マジックシールド)≫を展開した。虚空に現れた立体魔法陣が矢をはじく。


「くそっ、守るつもりなら、もっとしっかり守れ」

 勇者が毒づいた。

 ふん、こういうときに礼の一言があれば、しこりなく和解できるのだぞ。


 口は悪いが、あいつもだてに勇者と言われているわけではないようだ。

 俺が突き飛ばした勢いを利用し、壁を蹴ると、キョニーにとびかかる。

 一瞬だった。右腕に深手を負ったキョーニーの姿。


「くそっ、6対1ではさすがに分が悪いか」

 キョニーは算数が苦手なようだ。おい、間違えるなよ。4対1対1(+1)だ。


 キョニーは、ダラダラと出血している右手をおさえ、ばさりと翼を広げた。窓に足をかけ、捨て台詞を吐いた。

「今日のところはこのくらいにしておいてあげるわ。だが、魔族の力を甘く見ないことね。これからが楽しみだわ」

 そして、そのまま飛び去って行った。


 後には、勇者たちと俺、そして影の薄い王様が残された。


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