表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

191/203

リングメーカー


 翌日、俺はアリサをマリアの工房(アトリエ)に呼び出した。

「おはようございますっ! もしかしてスターキーについて、何かいいアイデアが浮かんだんですか?」

「おはよー、アリサ。会うのはギルドに登録したときぶりになるのかな? ボクのこと覚えてる?」

「ええ、もちろん! ……でも、そんな顔色悪かったですか?」

「余計なお世話だよ、せっかく助けてあげようと思ってんのに!」


 そういえばギルド登録時はまだマリアは生きていたな。彼女がゾンビになったのは、そのあとだ。


「ところで彼ぴとうまくいかなくて困ってんだって?」

「ああ、そうなんですよー。何かいい方法ないですかねえ?」

「もったいないなあ。マリアってかなりモテるんだよ。他の冒険者たち、いっつもキミのことを可愛いって言ってるもん。僕なら、振り向いてくれない男よりは、イケメンの冒険者を見つけて乗り換えるけどなあ?」

「えー、さすがにないなあ。そりゃ冒険者さんたちにはいつも助けられてますけど、あの人たちってがさつでデリカシーってものがないんですよ? お尻だって触ってくるし」

「じゃあ、冒険者たちが嫌いというわけではないんだな?」

「もう、なんなんですかいきなり? 嫌いだったらそもそも冒険者ギルド(あんなとこ)で働いてませんよ。いざというときには頼りになる人たちだってのも知ってますし。 ……あの人たちに言っちゃだめですよ、調子に乗りますから!」


 へー、そっかー。適当に相槌をうちながら、俺とアリサは頷きあう。

 やはり思った通りだ。これなら作戦もうまくいくはず。



「ボクは恋愛のアドバイスはできないけど、呪いの指輪(カーシド・リング)の話が気になってさ。ちょっと見せてもらえないかなって」

「え? これですか?」

「そうそう。鍛冶師として興味があるのと、あとは痛みを軽減してやれないかなと思ってね。冒険者ギルドとしても、”呪いの”アイテムを放置しているのは、あまり体裁がよくないんじゃない?」


「うーん、いいけど、壊さないでくださいよ? 高かったんですから」

「大丈夫、もし壊れたらちゃんと弁償するよ。……イングウェイが」


 おい、聞こえているぞ。まったくこいつは、他のギルドメンバーよりも俺に対して遠慮がない気がする。




「話はまとまったな。じゃあマリア、頼むぞ」

「ボクは仕上げくらいだよ。むしろメインはイングウェイの魔術なんだから、しっかりしてよね」



 作戦は昨夜のうちに相談済みだ。


「~~という効果の指輪を使えば、アリサの気持ちも変えられるのでは?」

「なるほど。ってことは、指輪の改造が必要なわけだね。やだなー、アクセサリは小さいから神経使うんだよねえ」

「無理なのか?」

「まっさかあ! ばかにしないでよ。ボクより腕のいい魔法鍛冶師(ルーンスミス)なんて、アサルセニア中探してもいないんだから!」

「ふっ、信用しているぞ」


 魔道具(マジックアイテム)は製造時に魔法文字(ルーン)を組み込むことで完成する。

 単に魔術をかけるだけでも効果は発揮するが、時間の経過によってすぐに切れてしまう。それを防ぐために、文字を彫り込むと同時に特殊な魔術を織り込んでいくことで、半永久的な魔術効果を獲得するのだ。

 問題はこの、『道具自体に物理的な刻印(ルーン)を刻み込む』という過程である。剣や鎧などのある程度の大きさがあるものに比べ、指輪というのは非常に小さい。

 そこに文字を刻むというのは、かなりの技術が必要な作業だった。


「ということで、今回は前に彫ってある文字を利用しようと思うんだ。効果を反転させる方向で反転魔術(リフレクトマジック)を応用すればいいから、刻印も二文字くらいで足りるはずだよ」

「二文字か。ということは、魔術量をかなり圧縮しないとな」

「あー、できないのー? 仕方ないなあ。四文字くらい掘ってあげようかあ?」

「バカを言うな。簡単だ」

「ふっ、信用してるよ。――それより細かい調整をどうするかだね。気持ちよくって、具体的にどうするつもりさ?」


「そこは任せておけ。俺にいい考えがある」


 魔術を織り込むにもコツがあり、一つの文字に組み込める魔術量の制約がある。とはいえそこは組み方次第だ。同じプログラムを組んだとしても、素人と熟練者に違いが出るように、術者の腕でカバーできる範囲は大きい。

 ドロシーと一緒に転移魔法陣の作成をした記憶が思い出される。彼女は素晴らしい魔術師だった。彼女なら自分の半分の時間で終わらせることだろう――。



「できたー!」「ふう、ようやく完成か」

「ありがとうございました! これで痛みが抑えられるんですね?」

「ああ、おそらく大丈夫だ。今夜も行くのか?」

「いえ、しばらく冒険者ギルドの仕事が忙しいんですよ。ギルド長からちょっと用事も頼まれちゃって。じゃ、そろそろ私は仕事に戻りますね!」

「ああ、幸せにな」「うまくいくよう祈ってるよー」


 彼女はぶんぶんと手を振りながら走っていった。元気な娘だ。これで性格が暴走気味でなければな。本当にもったいない。


 俺たちが指輪に施したのは、想い人の拒絶に反応して激痛を与える指輪の、対象と効果を反転させる魔術だ。

 つまり、アリサ自身が他人から好意を向けられたとき、気持ちよくなるという効果がかかっている。


「しっかしイングウェイ、『気持ちよくなる効果』って、えらく漠然とした魔術だね。どうやったのさ」

「事前に、『感情を操作するのはいけない』と君に忠告されていたからな。あれを思いついたのは、君のおかげさ。ありがとう」

「え? ボク? 照れるなー。で、どんなの? 早く教えてよ」

「ASMRという術は知っているか? 俺もおぼろげながら記憶にあるだけの効果だが、今回はそれをヒントに術を構築してみた」


 俺はアリサの(忘れかけていたがアリサはゾンビである前にエルフである)長い耳を優しく撫でた。

「ひゃぅぅっ、い、いんぎー、だめだよ、そこはっ」


「ふっ、耳は神経が集まっているところ。誰しもが敏感に感じるところだ。今回はその中でも特に敏感な、耳の中をこそこそとくすぐられる効果を付けてみた」


「へ?」


「だから、耳の中をくすぐられる効果だ。耳かきをされるのは気持ちがいいだろう? それを応用してみた。”痛み”と”痒み”、別の感覚ではあるが、同じような神経という仕組みを伝って脳に伝わっている。つまり、指輪の痛みを与えるシステムを少しいじるだけで……」


「イングウェイ、君は思った以上に変態だったんだな。エルフの耳を勝手に触るなって、前に言ったじゃないか!」


 マリアは耳を押さえて、こっちをにらんでいた。顔にいつもの青白さはなく、きれいなピンク色に染まっていた。

 やれやれ、俺が何をしたってんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ