リスペクト・ザ・タイトネス
推測で動くのは、愚か者のすることだ。
彼女たちについて聞きたいことは山ほどあるが、それよりも気になるのは、先ほど彼女が左手を押さえて痛がっていたとき、どんよりした暗い魔力を感じたこと。
「アリサ、左手を見せてくれ。さっき痛がっていただろう?」
そこにはやはり、不穏な魔力を放つ金色の指輪がはまっていた。
「これは呪いの指輪じゃないのか?
「ええそうだけど?」
アリサは当たり前のように頷いた。何が悪いのかさっぱりわかっていないようだ。
「呪いの効果は知っているのか?」
「もちろん。スターキーが私に対してネガティブな言動を取ったら、激痛が走るの」
「なに!? ではスターキー、やはり君がこの指輪を?」
「いやいや、違いますって! この指輪、彼女が自分でつけたんです。僕は関わっていません」
「しかし、呪いの指輪とわかっていて、自分からはめるわけがないだろう。何のためにそんなことを?」
その問いに答えたのは、他でもないアリサだ。
「そりゃもう、愛をのために決まってるじゃないですか! だって、彼が嫌なことがわかるんですよ。てことは、それを避ければ彼の理想の女性になれるんです! 素晴らしいじゃないですか」
「なるほど、ものは考えようだな。柔軟な発想だ」
「何を納得しかけてるんですか! そのおかげで僕は、帰って欲しいのに強く言えないし、贈り物も受け取るしかないしで、散々なんですよ」
「きっぱり断ればいいだろう」
「そんな、何か言うたびに彼女が痛がってうずくまるんですよ。強く言えるわけないじゃないですか」
「ね、スターキーって優しいでしょう?」
なるほどな。なんだかんだでスターキーという男は優しいようだ。そのせいで泥沼にはまってしまったのだろう。不憫なことだ。
「そういえば彼ぴに指輪を贈ったと言っていたな。もしかして、その指輪にも呪いが?」
「はあ? 彼にそんなもの贈るわけないじゃないですか。何言ってるんですか、イングウェイさん」
なんだか頭痛が痛くなってきた。これも呪いじゃなければいいのだが。
とりあえず俺は、アリサの説得を試みる。フィッツを帰してしまったのが悔やまれる。フィッツはかなり現実的な性格をしている。こういう女性の説得には、なかなか向いていると思うのだ。
「アリサ、人を脅すのは良くないことだと習わなかったか?」
「習うというか、ふつーに法律違反ですよ。何言ってるんですか」
「わかっているならやめるんだ。君のやっていることは、脅迫でしかないぞ」
「私は好きで彼に尽くしているんです、脅迫なんかしていません!」
「逆だ逆、君がスターキーを脅しているんだ」
まったく埒が明かない。もっとも、ちょっと説得した程度で解決するなら、ジャニ・アランの奴も俺にアリサを任せてはいなかっただろう。
さて、どうしたものか。




