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狼と鴉亭

~酒場『狼と鴉亭』~


「あー、あれです! あの奥でドラムを叩いてる、長髪の彼、スターキーって言うんですよー!」


 店に入るなりアリサの酔いはあっという間に消え去り、恋する一人の乙女になっていた。

 ステージ上では4人組のグループが、ガンガン激しい演奏を行っていた。

 これは酒場というよりクラブだな。


「おい、先にトイレを見てきてくれないか?」

「何言ってるんですか、歌が先ですよ! 聞いてからにしてください!」


 ううむ、仕方ない。待つしかないか。


 俺は酒を飲みながら彼らの演奏を聴いていたが、なかなか骨のあるいい歌を歌っていた。

 アリサの彼ぴとやらのドラムも素晴らしいが、ツインギターによる曲構成が特に気に入った。激しいリフの裏で鳴らされるうねるようなメロディーラインは、まるでクラシックを元にしているように思えた。

 そしてサビのあとのベースソロ。途中でギターも入ってくるが、あくまで一歩引いて主役のベースを盛り立てている。


 うむ、満足だ。



 演奏がおわり、きゃーきゃーとうるさい女性たちの歓声があがる。

 そのとき、ドラムの男が一瞬客席を見て、ドキッとしたように見えた。


 まるでアリサを見つけて、驚いているような? ……まさかな。


 演奏が終わると次のバンドに入れ替わる。グラスに酒が残っているにも関わらず、アリサは俺の腕を引っ張って店の裏へと連れていった。


「ちょっと待て、なにをする気だ」

「決まってるじゃないですか! 出待ちです!」

「出待ちって、たった今演奏がおわったばかりだぞ? そんなに焦らなくてもいいだろ」

「いーや、だめです! 特に最近の彼は、他のメンバーも待たずに急いで帰るんですよ! たぶん他の女のところにーって、来たー!」


「ひいっ! ア、アリサっ!?」


 扉が開き出てきたのは、さっきのドラム男、スターキーだ。彼は顔を伏せて何かから隠れるように、焦った様子で出てきた。

 他の女のところに行くというよりも、まるで何かからおびえて、逃げているような……」


「お疲れさま、スターキー。今日もかっこよかったよ!

「もう店には来ないでくれって言ったじゃないか! 頼むからもう許してくれよ」


 彼がそう言った次の瞬間、アリサは左手を押さえうずくまる。

「きゃ、痛っ、いたたっ」

「あ、す、すまない。言い過ぎた。取り消すよ」


「うう、痛かった……。大丈夫よ、スターキー。それより、私の送った指輪、つけてくれた?」

「あ、ありがとう、アリサ。でも、指輪は、ごめん、つけられないって言ったよね」

「ふふ、イングウェイさん、彼って優しいでしょう? 他のファンから私が嫉妬されないように、ステージでは指輪を外してくれてるんです」


「あ、ああ、そうなのか」


 何か様子が変だな。


「君、こいつの知り合いか? 何とかしてくれ、もう嫌だ、限界なんだよ! こいつがいなくなるなら何でもするから!」


「おい、ちょっと待て、さっぱり話が見えないのだが。君はアリサの恋人ではないのか?」

「ええ、そうよ」

「いや、まったく違う」


 ううむ、困った。俺は頭を抱えた。

 どうやら大変な難題に巻き込まれてしまったようだ。俺はその時初めて、ジャニ・アランに一杯食わされてしまったことに気が付いた。

 なるほど、これが経験で問題を解決するという、老獪な冒険者の知恵か。許せん。


 状況を整理すると、おそらくアリサ嬢がスターキーに一方的な恋心を抱いているようだ。

 一番早い解決策は、スターキー氏がアリサを好きになってくれること。そうなれば円満解決だ。


 となると、≪洗脳(ブレインウォッシュ)≫の術でスターキーの恋心を刺激するのが一番早いのだが、たぶん、まずいだろうな。

 まったく、オーガやドラゴンなら吹き飛ばせば済むのに、人間関係は面倒くさいな。


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