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ギルド・イン・ラウドネス

~場面 (と時間)は戻って、アサルセニア冒険者ギルド支所~


 『オーランドゥの魔術書』を探してギルド長に会いに来た俺たちは、受付のアリサ嬢に門前払いされかけていた。


「ギルド長に合わせろにゃー」

「え、無理ですよ。あの人、超忙しいんですよ。紹介状もなしにほいほい案内してたら、受付の私が超怒られます」


 冒険者ギルドのカウンターで粘ごねているのは、亜人種の猫蟻娘(ウェアミルメコレオ)、フィッツ・マクバーニィだ。


「だからー、アントニーの紹介があるって言ってるにゃーん!」


「だーかーら、紹介状を出せっつってんでしょうが、この牝猫!」


 おお怖い。普段温厚なアリサ嬢がここまでぶち切れている理由はただ一つ。

 フィッツがしつこい。あまりにも。飲んでないのにこの絡み方は、一種の才能と言ってもよかろう。


 俺はその様子を、酒を飲みながら見ていた。

 最近あまり飲むタイミングが無かったので、この機会に飲めるだけ飲んでおこうと思ったのである。そう、朝からだ。


 もちろん仕事前なので、節度を保ち、飲むのはビール2杯まで。うるさいサクラやレイチェルはおいてきたので、俺を止めるものは誰もいない。

 フィッツとアリサの喧嘩をつまみに、飲む。とことん飲む。

 飲んでいないのにからむフィッツと、飲んでいるのにからまない俺。バランスはとれている。

 だがいけない、ビールは炭酸ガスのせいで、腹が膨れやすいのだ。やはり何か食べ物のつまみが欲しいな。

 そう思い、俺はフィッツに声をかける。


「おい、あまりアリサ嬢を困らせるな。食事にいくぞ」


「イ、イングウェイさーん、もっと早く助けてくださいよ……。この人、いや、この猫、しつこすぎて……」

 いつもの笑顔はどこへやら、アリサ嬢はぐったりと疲れ果てていた。


「すまない、少々考えごとをしていたのでな。それはそうと、アントニーは自分の名前を出せば取り次いでくれると言っていたのだが、違ったか?」


「え? そうなんですか。いやでも、お手紙とか証明できるようなものは、何ももらっていないんですよね?」


「いくら強いとはいえ、彼も冒険者という現場の人間だ。おそらく手続き的なことには疎いのではないか? 特に勇者パーティーとして普段からギルド長との距離が近いなら、なおさら勘違いしていても仕方ない。どうだろう、ダメもとでギルド長に声だけでもかけてみては?」


「えー、うーん、どうしましょーか」


 よし、ここであと一押しだ。


「アントニーから『オーランドゥの魔術所』についての話を聞くように言われた。そう伝えてもらえるかい?」


「あ、はいっ、それじゃあ聞いてみますっ」



 ありさ嬢はぱたぱたとかわいらしい足音をたてながら、奥へと引っ込んだ。


「ぎにゃあーーっ、ずるいにゃあ。なんでいんぎーが言うと素直に聞くんだにゃん!」

「まあ、一つの交渉術だな。飴と鞭、ドアインザフェイスなどと言われる技術だ。これも、フィッツがごねてくれたおかげでうまくいったのだ。ほぼフィッツの手柄と言っていいだろうな」


「え、そ、そうなのかにゃん? にゃへへー、嬉しいにゃん」


「ふっふっふ、ご苦労だった。よし、お前も待っている間に飲むがいい」



 などと言っていると、奥から鋭い目つきの男性が歩いてきた。必要な筋肉だけを残して絞り切ったように見えるその肉体には、大小さまざまな傷跡が刻まれていた。

 おそらく、引退した冒険者なのだろう。直感でわかる、どんな問題も知恵と経験と暴力で解決するタイプだと。

 体力バカのジャミルとはまた違うタイプだな。


「ギルド長、こちらがギルド『ミスフィッツ』のリーダー、イングウェイさんです。隣の牝猫は、ペットのフィッツ」


「イングウェイだ。よろしく」「ぶにゃあっ? ぺっとにゃん!?」


「私はこのギルドの長、ジャニ・アランというものだ。君のことは知っているよ。裏ではなかなか有名なのでね」


 以前何度か、王の秘密の依頼を解決したことを思い出した。ギルド長のいう「裏では有名」というのはそのことだろう。


「ではさっそく本題に入るが、『オーランドゥの魔術書』を知っているか? できれば次元魔術に関する記述があるものが欲しいのだが」


「もちろん知っているさ。だいぶまえだが、隣国との戦争があったのは知っているだろう? あれも元をたどれば、魔術書の奪い合いだ」


「ならば話が早い。魔術書の中でも、特に次元魔術に関する記述について調べたいのだが」

「ほう、次元魔術とはまた妙なものを欲しがるな。あれは理論の飛躍が過ぎて、偽物ではないかと言われていると聞いたぞ」


 ジニーという魔法使いが言っていた内容と違うが、特に驚きはない。

 人間、自分の理解を超えた理論は、なかなか信じられないものだ。おそらく並みの魔術師には理解できないほど、内容が高度だったのだろう。

 欲しがる人が少ないなら、むしろ好都合ともいえる。


「で、今どこにあるか知っているか?」


「ああ、知っている、トイレだな」

「はあ? インギー、やっぱりこいつらダメにゃん、答える気がないにゃん」


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