……沈黙
~インストゥルメンタル~
「女神さまー、よろしいんですか? 彼、次元跳躍の術に興味をしめしてますけど」
「良いに決まってるじゃない。それも含めて、人類の進化ってものよ」
「でも、『次元と時間は不可侵であるべき』でしょう」
「それは頭が固い先輩たちが勝手に決めた禁忌よ。次元も時間も、どこにでも存在するんですもの。禁止する権利なんて、誰にもないわ」
「じゃあ、なんでそんなことを言い出したんですか」
「単純に、その二つは他への影響が大き過ぎるからでしょうね。部分的にでも、世界自体の崩壊につながる危険もあるし、よからぬことを考えるやつがいたら、国なんか簡単に滅びるわ」
「もしかして、お酒の代わりにダイヴを使う方向にシフトしたのって」
「そうね。魔術は強力な力だけど、必須というわけではないから」
「……」
「そんな顔しなくても、彼は大丈夫よ、たぶん」
彼女の口にした言葉は、半分は願望だった。
彼なら、なにか起こしてくれそうな気がしたのだ。
酒が失われた世界で、新しいトリップ手段として作り出された『ダイヴシステム』。
ゆっくりと、しかし確実に、ダイヴシステムは人々を侵食していった。
強引に精神に作用することで、魔力と肉体との同調を阻害していったのだ。
結果、その世界からは魔術が奪われた。 ……はずだった。
魔術が存在しないはずの世界に、唯一存在するイレギュラー。それが彼だ。
この状況を打ち破る存在がいるとするならば、彼しかいないのだ。
女神は覗き見つつも、いまだ沈黙を保っていた。




