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ジャミル・ソール


「ちょおっと待つにゃあああーん!」


 その場を去ろうとした俺たちだったが、急にフィッツが大声を上げて引き留めた。


「まだ、みーは何も活躍してないにゃん! ジャミル、ここで決着つけるにゃん!」


 フィッツのターゲットとなったのは、ジャミル・ソール。勇者パーティーの前衛(タンク)である、斧使いの戦士だ。

 フィッツとは街で会うたびに拳を交えあうという、不良マンガのような関係である。


 が、結果は今のところフィッツの全敗。

 当然だが仕方ない。スピードではわずかに上回るフィッツだったが、歴戦の戦士であるジャミルには、それだけでは通用しない。

 どんなにスピードがあっても直接的なフィッツの攻撃は読まれやすく、逆にうまくフェイントを入れてくるジャミルにぼこぼこにされてしまうのだった。


 止めようとする俺に、フィッツは瞳をきらりと輝かせ、宣言した。


「インギー、勝機がみえたにゃ、やらせてくれにゃん」


「どういうことだ?」

「やつはケガをしているにゃ、そこをつけば! このチャンスを逃すわけにはいかないにゃん!」


 よく見ると、確かに奴は腕と足をかばっている。疲れも取れていないようだ。

 どうやら昨日の戦いはよほど激しかったようだな。


 しかし、なあ……。


「さすがに、それは卑怯じゃないか?」


「何を言うにゃん、いんぎー! いんぎーは言ったにゃん、冒険者ならチームでの勝利を目指せと!」

「まあ、確かに言ったが、こういうことじゃないだろう?」

「こういうことにゃん! みーもあいつらも、同じところまでやってきた。片方は無傷、片方はケガをしている。これはチームリーダーの指揮の差とみて、何か問題あるかにゃん? にゃあ? アントニーぃ?」


「いやー、まあ、そう言われたら返す言葉もないね」


 苦笑するアントニー。

 フィッツめ、本人ではなくリーダーを煽りにいくとは。なかなか狡猾になったものだ。一体誰に習ったんだ?


「はー、仕方ねえな、やってやるよ」

「ジャミル、無理しなくてもいいんだよ」

「なあに、リーダーを侮辱されて黙ってるわけにもいかんだろ。お前さんは見物しててくれ」


 まあ、いいか。やりあうといっても、殺しあうわけでなし。

 それがわかっているから、アントニーも強く止めようとしないのだろう。


「仕方ないな。好きにしろ。ただし、お互い素手だぞ。フィッツも爪はなしだ」


「おう!」「にゃあ!」



 俺の言葉を合図にとびかかるフィッツ。ジャミルは動かずに構えをとった。やはり足のケガが響いているのだろう。


 にゃあっ! ふにゃあっ! おらっ! くそっ!


 二人がやるときは互いに素手らしいのだが、ケガをしているジャミルにとって、普段以上のハンデのはずだ。にもかかわらず、フィッツの猫ぱんちをよくさばいている。

 普段なら力任せに叩き落しているのだろうが、今はいなすように動き、隙あらば腕ごと掴み、関節をきめようとすらしていた。

「うまいな、ごつい筋肉にたよらず、経験を活かした強かな戦い方もできるのか」

「そりゃあ、僕のパーティーの壁だからね。簡単には倒れないさ」

 アントニ―は自慢そうに言った。彼をどれほど信頼しているかがよくわかる。


 だが、フィッツのことも、甘く見てもらっては困る。


 フィッツはジャミルの蹴りの力を利用して高くジャンプすると、しなやかな体のバネを最大限に生かし、三角蹴りからの体当たりをしかけた。

「くらえにゃあああっ!」

 おう、これは躱しづらい。


「ぐぅううっ、こいつ!」

 普段のジャミルなら、なんてことはないだろう。が、今の彼は手負いだ。

 フィッツが体当たりを仕掛けたのは、負傷しているジャミルの右肩方向からだ。

 ダメージというより、負傷した肩をさらに痛めつける狙いだ。


「あいつ、実はけっこう卑怯なんだよなあ」


 彼女は幼いころからマンティコア世界で生きてきた。野生の世界において、相手の弱みを見つけて狙うのは当然のこと。

 体当たりの勢いそのままに、ジャミルの腕にしがみつくフィッツ。

 ジャミルは何とか耐えているが、あれは、絶対に激痛のはずだ。


「うっとおしいんだよっ! くそっ!」

 無理やり腕を振り回し、フィッツを引きはがす。が、それこそフィッツの思うつぼだ。


「ここだにゃん!!」

 フィッツは片腕を床につき、そのままジャミルの脚に蹴りを放つ。読んでいたジャミル。

 フィッツはブロックされた足を支点に体を起こすと、腕を振った。 空振りか? いや、違う。


 目つぶしだ!


「いってえええ!」


 フィッツは倒れた拍子に床の砂を掴んでおり、ジャミルの顔に投げつけたのだ。


「いけ、フィッツ!!」

「にゃあああっ!!」


 どすっ


 渾身のねこぱんちが、ジャミルの鳩尾にしっかりと入った。

 ジャミルはうめきながら、膝をついた。勝負あったな。




 戦いは終わり、治療はニーナという僧侶がしてくれた。

「くっそお、ついに負けたかあ」

「ふっ、ジャミル、お前もなかなか強かったにゃん」


 やれやれ。あとはこのまま勝ち逃げするだけか。


「じゃあな、今度こそ俺たちはいくぞ」

「ああ。君たちのことは忘れないよ。機会があればまた会おう」


 俺たちは魔王城を後にした。

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