デストラクション・プリヴェンター
~アントニー~
魔王城で一夜を明かした僕たちは、城の調査にとりかかることにした。
化け物に恐れてはいられない。僕らの本当の目的は、こちらなんだから。
この世界に転生したからには、この世界の未来のため、平和のために自分の力を使う覚悟はできている。仲間たちを得て、その気持ちはもっと強くなっている。
そうだ、むしろあんな化け物がいるからこそ、強力な戦闘力を持つ転生者の情報は大切だ。
ああいった災害がこの世界を壊す前に、それを防ぐもの
が必要なのだ。
僕は深呼吸して、みんなを鼓舞する。
「さあ、行こうか、みんな」
「「「おおー」」」
歩き出してすぐに、何か騒いでいるような声に気付いた。
下の階だろうか?
耳をすますと、女性の声のようだ。
…だから……にゃん。 ……うるさ…頭が……
よく聞こえないが、話声のようだ。
「とりあえず行ってみよう」
「本気なの? 昨夜みたいな強い敵だったらどうするのよ」
「あんなやつ、そう何人も出てこねえよ」
「そうだね。多分大丈夫」
杞憂だな。何も僕だって、適当な理由で大丈夫だと言っているわけでは無い。みんなを危険にさらすわけにはいかないからね。
なんか暢気そうな声だったので、おそらく大丈夫だろうと判断したのだ。
「そういやアントニー、なんであんなレベル高いのを隠してたんですかー」
「そーよ、レベル45だとか大嘘じゃない! ぎゃーぎゃー」
◇◇◇
「なんでウォッカをあんなにガバガバのんでるにゃん!」
「だってー、飲みやすかったんだもーん」
「サクラ、それは女を酔わせる手口にゃん! お前ちょろいんだから、インギー以外と絶対飲むなにゃん!」
なんだこいつら?
角を曲がったところにいたのは、金髪の美形な男と奇妙な服装の女、そして獣人族の女だった。
「君たちは誰だ? ここで何をしている?」
「あー! おまえはジャミルにゃん? ここであったが百年目にゃん」
「おう、お前か。どうしたんだ、こんなところで」
え、知り合い?
どうやら話を聞くと、ジャミルがよく相手をしている獣人というのが、この娘らしい。
そして彼らのリーダー的存在の青年も、僕らのことを知っていた。
「誰かと思えば『永遠の歌』の面々か。ずいぶん戦い疲れた顔をしているな。魔王とやらはそんなに強かったのか?」
彼に侮蔑の意味はないのだろうが、それでも少しむっとした。
こちらの苦労も知らないで。
「ああ、魔王も強かったがなあ、その後に出てきた化け物がまたひどかったぜ」
「化け物? もしかして金髪幼女の吸血鬼かにゃん?」
「「「知っているの??」」」
イングウェイと名乗る冒険者と昨夜の吸血鬼が知り合いだと聞いて、僕らは驚きを隠せなかった。
彼もかなり強いのは、見てわかる。最初は転生者を疑ったが、吸血鬼の知り合いということは、たぶん違うのだろう。
広い世の中、そんなに簡単に転生者に会えたら苦労はしない。
一通りこちらの話を聞いたあと、イングウェイは言った。
「オーランドゥの魔術書とやらが見てみたい。特に次元に関する部分だ」
「見てどうするつもりだい? まさか、やましいことを考えているんじゃないだろうな」
野心を抱いての行動なら、見過ごすわけにはいかない。だが、彼はこう言った。
「ちょっと、知り合いを助けに行かなくてはならなくてな。どうやら別の次元にいるらしい」
「君は、自分が何を言っているのかわかっているのか?」
「ああ。次元跳躍の術法のために、オーランドゥの魔術書を参考にしたい。なにか問題が?」
問題は大ありだ。僕やジニーですら、次元を超える術なんて使えない。しかも、こんな男性の魔術師が? 無茶にもほどがある。
「馬鹿なことはやめておいたほうがいい。次元を超える術なんて、扱える魔術師はいないよ」
「だからどうした? 救うことができないから、膝をついて降参しろと? それこそバカなことだ」
イングウェイはまっすぐな曇りのない瞳をしていた。彼は本気だった。
本気で、次元跳躍をするつもりなのだ。
僕は忘れていたのかもしれない、本気で立ち向かうことを。その決意が、不可能を可能にするのだ。
魔王相手に劣勢になっただけで心が折れかけた、あのときの焦りが頭をよぎった。
「強いんだな、君は。……ギルド長に、僕の名前を出してみてくれ。何か情報がもらえるだろう」
「ありがとう。恩に着る」
固い握手のあと、彼らは去っていった。




