ドロシーからの伝言
~時は戻って、こちらは現代、魔王城。~
俺たちは、なんだか美しい回想シーンでごまかされかけていた。が、そうはいかない。
一番大切な質問に、こいつはまだ答えていない。
「おい待て、やっぱりわからんぞ」
「ん、なにがじゃ?」
「俺はドロシーという女と、ろくに話もしたことがないんだぞ。もちろんお前ともだ。なぜ俺が水先案内人とやらに認定されている」
リーインベッツィはあっけらかんと答えた。
「ああ、おぬし、ドロシーの魔力紋を持っとるじゃろ。それで気づいたのじゃ。
「魔力紋を? そんな馬鹿な」
「嘘じゃないわい。といっても、少々変質しとるようで、最初は気づかなかったがのう」
「あのー、イングウェイさん、魔力紋ってなんですか?」
ああ、魔術に詳しくないサクラは、知らなくても無理はないか。
人はそれぞれ、固有の魔力周波数を持っている。それらは指紋のように、一人一人違い、まったく同じということはない。それが魔力紋だ。
「でもですよ、それなら、イングウェイさんがドロシーさんってことになりませんか? あれ、ドロシーさんがイングウェイさんなのかな?」
おう、サクラにしては鋭い指摘だな。
「うむ、ベースはインギーじゃの。それにドロシーの魔力が少々混じっておるような」
リーインベッツィは俺の胸に顔を近づけ、ヒクヒクと匂いを嗅ぐようなしぐさを見せた。
何を言っているんだ、インギーといえばベースではなく、ギターに決まっている。大体魔力紋が混じるなんて、聞いたことないぞ。
「ま、細かい話はこいつに聞いたんじゃがのう。ほれ、見覚えあるじゃろ?」
にゅるん、とリーインベッツィの服の隙間から出てきたのは、なんとメタ梨花だった。
「あー、メタ梨花ちゃん!」
「おお、そういえばいつの間にかいなくなっていたな。すっかり忘れていたぞ。どこへ行っていた」
メタ梨花は白く輝く美しい体をくねらせながら、説明した。
「どうもー、お久しぶりです。先日たまたまご主人さまのところにたどりついたでしょ? そのとき、こっそりあそこに残ってたんですよ。懐かしくってー」
「まさかお前のご主人様とかいうのは?」
「ええ、ドロシー様ですよ」
「「はあ??」」
そろって声をあげる、俺とサクラ。
「まさかこいつが喋れるようになっておるとはのう。インギーや、おぬし、何かしたな?」
吸血鬼はしたり顔で、にやにやと邪悪な笑みを浮かべている。どうやらメタ梨花とも顔?見知りのようだ。
正直あのときはひどく酔っていたので、覚えていない。心当たりと言えば、俺たちの姿をコピーしたくらいか。
「まあよい、そのおかげで、こいつがわしのところへ伝言を届けられたのじゃ。感謝しなくてはのう」
伝言だと?
俺はため息を付く。嫌な予感しかしない。だいたいだな、なぜみんな俺のところに問題ごとばかり持ってくるのだ、まったく。
あの時だってそうだ、クソ世界から抜け出せないと先に逃げ道を潰してからの、「協力してくれる?」だ。
貴重なインベントリも、中身の酒もくれてやった。まったく、だから女ってやつは。
毒づいてみるが、それでも断れない俺の人の良さに、自分でも呆れてくる。
そうだ、「困ったやつには手を貸せ。魔術師以前に人であれ」そんなことも師は言っていた。
まったく、なまじ強いのも困りものだな。ぶつぶつ。
「……おいサクラ、俺は今、何を言っていた?」
「え? 何も聞こえませんでしたけど。ひとりごとですか?」
「いや、いい」
なんだこれは? まさか記憶の混濁だろうか。
「どうしたのじゃ、ふたりとも。そんなことより伝言じゃが、ほら、はよ言わんか、メタ梨花」
「あ、はい。『イングウェイを覚醒させなさい、ただし、アサルセニアでね』だそーです。なにかわかりますか?」
なんだそりゃ。
はあ、シリアス展開はそれなりのやつに任せてくれ。俺は酔っ払って適当に敵を焼き払うほうが性に合ってる。




