王都炎上
こうして、サクラ・チュルージョとマリア・ラーズ、そして俺の3人は、レイチェルの家に居候することになった。
レイチェルの家はもともと病院だったこともあり、部屋数はそれなりに多い。古いけど。あと汚い。でも広い。
この広さなら、あと数人はメンバーが増やせるな。俺の言葉に、レイチェルは呆れながらも嬉しそうだった。とりあえずメイドさんが欲しいな。掃除を任せられるやつが必要だ。
俺の武器も完成したし、当面はこの王都アサルセニアを拠点として、冒険者として活動していくことになるだろう。
暢気にそう思っていた矢先。
その日は、よく晴れた日だった。薬草採りの依頼が入っていたため、俺とサクラとレイチェルは、アサルセニアを離れ近くの森へと来ていた。
そういえば最初にこの世界に来た時、このあたりの領主の家に世話になったな。
キャスリー・レノンフィールドと言ったか。あの金髪の元気な少女は、どうしているだろうか。
そんなことを思っていると。
異変に最初に気付いたのは、眼の良いサクラだ。
「あれー、なんか向こうの方で煙があがってませんかー?」
このあたりだと木がじゃまでよく見えないな。
「待ってろ。≪飛行≫っ!」
俺は呪文を唱えると、ふっと宙に舞い上がる。確かに遠くに煙が上がっており、なんだか風に乗って焦げ臭いにおいも届いてくる。
「あっちってことは、王都のほうですよね」
レイチェルが言う。
心配そうに顔を見合わせる、サクラとレイチェル。
「戻ろうか」
「でも、薬草集めがまだ終わってませんよ?」
「依頼を失敗するくらい、なんでもないさ。それより、マリアのほうが心配だ」
「イングウェイさん、優しいんですね。当然のことみたいに。なんだか妬けちゃうな」
レイチェルがいたずらっぽく言ってくる
「何バカなこと言ってるんだ。お前が残ってたとしても、同じようにすぐ帰るさ」
「えっ、それ本気で言ってます……?」
レイチェルは顔を真っ赤にしている。何を勘違いしているか知らんが、今はレイチェルにかまっている場合ではない。
ほら、行くぞ。
俺は二人をせかし、帰路につく。
王都に着いた俺たちは、驚きのあまり門の前で立ち尽くしていた。
なんだこれは?
城壁は崩れ、街からは複数の火の手が上がっている。行くときに挨拶をした門番は、どこにもいない。
奥からはまだ戦いが続いているのだろう、遠くで多くの人たちの怒号や叫び声、戦いの音が聞こえる。
「まずいな、急ぐぞ!」
門からレイチェルの家までは、かなり距離がある。
そこまで戦火が届いていないことを祈りながら、走る。
王都は変わり果てていた。
ここに至っては、魔法を出し惜しみをしている場合ではない。
俺は軽く女装をすると、剣を抜いた。
レイチェルも骸骨を呼び出し、戦いの準備をする。
「いいのか、レイチェル。骸骨を使役しているところを、知り合いに見られるかもしれないぞ?」
「イングウェイさん一人に押し付けるわけにはいきません。見られたら見られたで、うん、何とかなりますよ」
レイチェルの決意は固いようだ。
「急ぎましょう、二人とも」
サクラもモモフクを抜いて、やる気満々だ。いつものドジっ子の姿はどこにもない。
俺たちは走り出した。
道をオーガがふさいでいる。
「邪魔だ、≪即死掌握≫」
オーガは声もなく、血を吹いて倒れる。
と、その影から数匹のガーゴイルがとびかかってきた。
「それで隙をついたつもりか? ≪熱風刃≫」
ガーゴイルはぎゃーぎゃー騒ぎながら撃ち落され、石畳に激しく叩きつけられる。
「すごい、あの時は全然本気じゃなかったんだ」
「強いわね。まさかここまでとは思わなかったわ」
「二人とも、感心するのもいいが、油断するなよ。自分の身は自分で守るしかないんだ」
「「はいっ」」
魔王軍侵攻……魔王軍の猛攻で王国がピンチという展開のアイデアは、友人の蛸山さんから。序盤の山場ということでアドバイスをもらいました。




