すべては女神の掌
「――というわけじゃ」
「ぐすっ、うええ、ドロシーさんかわいそう。リーインベッツィちゃんも、頑張ったんだねえ。えらいよ。ううー」
「おいサクラ、泣くな」
相変わらず泣き上戸のサクラ。今日は飲んでいないはずなのだが。そういやフィッツの時も泣いていたな。
そんなことより、今の話で気になる点があった。
「おい、話はわかったが、今の話に俺は出てこなかったぞ。俺はどこでドロシーに関わったんだ?」
「おう、そうじゃそうじゃ。実はドロシーは、すでに転生に成功しとるんじゃ。だが、次元転移がうまくいっておらん。そこでインギー、ドロシーはおぬしを利用して次元の壁を越えようとしておる。いわば水先案内人じゃな」
「どういうことだ?」
次元転移。一般的な知識くらいはあるが、俺の専門ではない。そもそも理論だけで、現実に成功したという話も聞いたことがないからな。
吸血鬼は言った。
「『日本』という地名に聞き覚えはないか?」
俺は正直に答えるべきか少し迷ったが、ここまできて隠す意味もないと判断した。
「……ある。俺は昔、そこで働いていた」
「働いとった? その話は初耳じゃのう。まあよい、とにかくぬしは、ドロシーとわしをつなぐ大切な鎖なのじゃ」
俺の混乱をよそに、吸血鬼はつづけた。
「今のドロシーとは、夢の中での邂逅が精いっぱいじゃ。ぬし、変な夢を見たことはないかの? ドロシーは、穴のせいだと言っていた。ダイヴシステムとやらが魔力を阻害して悪さをしとるんじゃと。わらわにわかるのは、そこまでじゃ」
「……ある。心当たりはある。なるほど、あのクソったれな夢は、その魔術師のせいだったのか」
「あんまり悪く言わんでくれんかのう。悪いのは”穴”であって、ドロシーじゃないんじゃ」
申し訳なさそうに吸血鬼が言った。だが俺は、小さく「たぶんじゃけどの」と付け足したのを聞き逃さなかった。
「あ、あのー」
サクラがおずおずと手を挙げた。
「私もなにか、関係ないんですか? そのー、私もドロシーさんと会ったことありますし。重要人物とかで何かかっこいい役割とかありませんかっ?」
なんでこいつ、こんなに嬉しそうなんだ?
「どうかのー? 酔っぱらっとったのなら、偶然夢の中で会ったのかもしれんのう」
「そうですかー、夢かー。しょぼーん」
サクラはがっくりと肩を落としていたが、俺は正直ホッとしている。
こんな面倒なこと、関わりないほうがいいに決まっている。
吸血鬼がフィッツを眠らせてくれてよかった。
世の中、知らない方がいいこともあるからな。




