ありていに言うと
ホームに戻った俺とフィッツは、ギルドメンバーを集めて今回のことを説明した。
「実は、勇者パーティーを追って、北にある魔王城を目指そうと思う」
「ほうほう、次の依頼は魔王城の調査か何かですか?」
サムライのサクラが、サケを飲みながら聞いてきた。
俺はウイスキーを飲みながら答える。
「いや、いやがらせだ」
「はあ? 何言ってるんだい」
焼酎を飲みつつめんどくさそうにツッコミをとばすのは、ゾンビのマリアだった。
「説明はフィッツに任せる」
ちなみにレイチェルは、すでにべろんべろんだった。半分寝ている。
フィッツは、自分とジャミルとの因縁、そして勇者パーティーが魔王城の調査に行くこと、それを邪魔したいことなどを話した。
「で、事情はわかりましたけど、私たちを集めて、なんの相談です?」
覚醒したレイチェルが、ビールを飲みつつ質問してきた。
「うむ、悩んでいるのは、今回のパーティーメンバーだ。今ギルド『ミスフィッツ』には、俺を含めて5人のメンバーがいる。フィッツと俺は確定として、その後だな」
そういえばキャスリーは、例のゾンビ事件の時にエドワードに預け、そのままだ。
少し父親に鍛えてもらうという手紙が届いていた。なんだかんだで、エドワードは娘に甘い。任せておいて問題なかろう。
魔王城はレノンフィールド領の先なので、一応道中でキャスリーを連れていくという手もあるが。
俺の気は重たかった。
「珍しいですねー、イングウェイさんが悩むなんて。前みたいにダイスで決めちゃえばいいんじゃないですか?」
「そうもいかん。成り行きとはいえ、今度の目的地は魔王城だ。しかも、相手が勇者パーティーときている」
うそである。そんなものは言い訳だ。
悩んでいるのは、今回が転生者がらみの案件かもしれないからだ。
もし相手に転生者がいた場合、俺は彼女らを守り切れるだろうか。
「心配なんでしょう? 私たちがついて来れるかどうかが」
核心をついたのは、レイチェルだ。まったくかなわないな、こちらの考えは見透かされていたようだ。
「はっきり言ってくださっていいですよ。ありていに言って、私たち、足手まといなんでしょう」
「いや、そういうわけでは」
しかし、俺よりも先に、サクラとフィッツが口を開く。
「まあ、仕方ないですね。イングウェイさんが本気を出したら、誰もついていけないのはわかってましたし」
「そういうことにゃん。どうせジャミルのやつも、その気になれば勝てるんにゃん?」
「いや、違うぞ。今回の相手は、俺がみんなを守り切れるかわからないから――」
「それです!」
びしっと俺を指さすレイチェル。
「守ろうとしてくれるのは嬉しいですけど、それは対等の関係じゃありません! もっと私たちを信用してください!」
その言葉に俺は衝撃を受けた。守ろうとしているのは俺のエゴなのだ。
そうか、そうかもしれない。
じゃあみんな、着いてきてくれるか?
俺の言葉に、レイチェルは言った。
「ええ、私はいきませんけど、サクラさんとフィッツさんなら、きっと大丈夫です!」
「えー、レイチェル、今絶対に一緒に行く流れだったじゃないですかー!」
「だってマリアさんの体はどうするんです? 死療術師の私がいないと、何かあったときに治療できませんよ」
「「あ」」
「ごめんねー、ボクの仕事は戦いじゃなくて鍛冶だし、ちょっと今回もパスかなー」
「そういうわけですよー。死霊術師は、少数精鋭での潜入作戦なんかには向いてませんからね、おとなしく待ってます」
すまない、レイチェル。だが、俺は彼女の本音をわかっていた。
「本音はどうなんだ?」
「え? そりゃもちろん、こないだの遠征で懲りたからです。ビールが飲めないのはキッツい! 一日の疲れを癒すには、私にはビールが必要なのですよ!
そしてビールをおいしーく飲むには、この魔道冷蔵庫がぜったいに必要ですから!」
「やはりか。まあいいさ、今回は魔族の地に潜入する。確かにレイチェルよりも、運動神経に優れたフィッツとサクラが適任だろうしな」
「はい、任せてくださーい!」
「がんばるにゃん」
「いってらっしゃーい。じゃマリアさん、私たちはしっかり留守を守りましょうねー」
「うーん、まったく、仕方ないなあ。よろしくね、たまには家事もしてよね、いっつもサクラにおしつけてるんだから」
「わかってますよ。骸骨にがんばってもらいますから」
「えー? ズルいなあ」
……なんだか先日から、やけにレイチェルとマリアの仲が良い。何かあったのだろうか。
それはともかく、今回の冒険のメンバーは決まった。俺、フィッツ、サクラの三人だ。
さあいくか。




