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ダメ男の詩

 ~ところ変わってこちらは酒場。フィッツとイングウェイは飲んだくれていた~


「あ”ーもう、くやしいにゃんっ! あのブサイク、性格も悪いし絶対にモテないにゃん! モテない恨みから筋トレにはまったに違いないにゃん!」

「わかるぞフィッツ、あいつはムカつく。だいたい筋肉キャラはかませと相場が決まっているのに、生意気に技を使いやがって」

 俺たちはぐびぐびとグラスを空にしながら、ジャミルの悪口を言い合っていた。


「で、いんぎー、どうするつもりにゃん?」

「どうするとは?」

 焼き鳥にかぶりつきながら話すフィッツ。

「わかってるくせににゃん。どうやったらジャミルのやろうに一泡吹かせられるかにゃん」


「ああ、そのことか」


 俺はピーマンの肉詰めを箸でつつきながら、迷っていた。

 このピーマンはでかいのだ。一口で食べると、ぎりぎり口からはみ出るだろう。しかし、半分かじろうとすると、ぼろぼろこぼれるに決まっている。

 フィッツの質問についても、同じくらい迷っている。


 ジャミルについてはムカついている。だが、フィッツについては正々堂々の勝負だったし、仕方ないという気もしている。

 ムカつくにはムカつくが、俺自身、そこまで執着するほど怒り狂っているわけでもない。


 それはなぜか。決まっている、酔っているからだ。

 今俺様は気分がいい、見逃してやろう。そういうことだ。

 だが、フィッツは違った。やる気満々だ。


「フィッツ、そのやる気はどこから出てくるんだ?」

 俺はストレートに聞いてみた。

「決まってるにゃん、イングウェイは強くなりたくないのかにゃん? みーは、誰にも負けたくないにゃん」


 ああ、なるほど、合点がいった。

 俺がいまいちジャミルへの仕返しに乗り気になれないのは、俺の方が強いからだ。

 言い訳では無い。結局のところ、俺の本職は魔法使いなのだ。

 あの時は魔法を使っていなかった。魔法を使えば負けはしない。格闘で負けたからと言って、いまいち心の底から悔しいと思えないのは、そこに要因があるのだろう。


 それがわかったら、急にフィッツがまぶしく見えた。うらやましいな、その向上心は。

 かつて仲間とともに魔術を学んでいた日々が、懐かしく思い出される。


「フィッツ、君はなぜジャミルに勝てないと思う?」


 フィッツはほうれん草のバター焼きをつつきながら、少し考えていた。

「決まってるにゃん、力こそパワー、パワーが足りないにゃん! ……と言いたいところだけど、わかってるにゃん。あいつは単なるちからだけじゃない、みーのぱんちをいなす技術(テクニック)を持ってるにゃん。それをつぶさないと、勝てないにゃん」


 技術を学ぶではなく、「つぶす」と表現するフィッツに、俺は苦笑した。


「じゃあ、ジャミルにどうすれば勝てるようになる?」

「それがわかれば苦労しないにゃん」


 ごもっともだ。


「フィッツは強い。だが、お前は戦士ではなく、冒険者だろう?」

「にゃん?」

「人にはそれぞれの色がある。筋肉はあいつの強みであって、君の強みではない。君の魅力は、もっと違ったところにある」


「ほう!?」

 フィッツの耳がぴくんと立った。

「いんぎーも、みーの魅力にめろめろなのかにゃん?」


「ああ、そうだな。単純な強さではなく、しなやかな筋肉や素早さ、野生のカン。洞窟で鍛えた、夜でも見える目。そしてなにより、君には仲間がいる」


「むー、複数で袋叩きにするってことかにゃん? それはちょっと卑怯な気がするにゃん」


「そうじゃない。要は、ギルド『ミスフィッツ』が、『永遠の歌(ソング・リメインズ)』より上だと証明してやれってことさ」

 俺はぐびりとグラスを空にすると、フィッツに言った。

「やつら、北の魔王城の調査に行くんだろう? 追いかけるぞ、奴らより先に手柄を立てて、一泡吹かせてやる」

「おお、いい考えにゃん!」

 ムカつくジャミルの仲間なら、全員ムカつくに決まっている。せっかくだからまとめて嫌がらせをしてやるのだ。


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