表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

149/203

疑惑の種


 翌日。やってくる役所の職員、立ち向かうレイチェルとマリア。


「「ごめんくださいーい」」


「はーい、何でしょう?」

 レイチェルは珍しく白衣の医療スタイルで、来客を迎えた。


 扉を開けるとそこにいたのは2人の中年男性。メガネで性格がきつそうな男と、小柄で細身の神経質そうな男だ。

 先日来たジャミルとは違い、いかにもなお役人という風体だった。

 レイチェルは相手を見て、作戦Bね、と心の中で確認する。


 いかにも何も事情を知らないかのように、背の高い男性に話しかける。

「おやぁ、どうしたんですかぁ? まだ診察はやってませんけど、具合でも悪くなりましたかあ?」


 背伸びをして男性の額に手を当てて、熱を確認するそぶりをする。その後、顔色をうかがうふりをしつつ、さりげなく前かがみになるのも忘れない。

 胸元のボタンは、一つ余計に外してある。


「あっ、いえっ、そのー」

 女性慣れしていないのだろうか、男性は顔を赤くしてどぎまぎと答えた。いや、全然答えにはなっていないけど。


 眼鏡の男性の目線も胸元に注がれているのを、レイチェルはしっかりと確認していた。心の中で軽くガッツポーズをしたあと、しなりと身体をくねらせて言った。

「何の御用ですかぁ?」


「ええと、役所の生活安全課から来たものですが、ここで動く死体(ゾンビー)骸骨(スケルトン)の目撃があったということで、その、ええと、確認しにきたのですが」

 男性の目線は明らかに泳いでいる。

「あらー、そうなんですかぁ? まあ病院ですからねぇ、ケガしたり包帯している人もいますから。見間違えたんでわぁ?」


 左で聞いていた眼鏡の男性が、硬い口調で否定する。

「いえ。この家の裏口などから日常的に出入りいしていると、具体的な目撃例もあります。あとは、鍛冶屋の看板を掲げておいて、変な機械を売っていたとかいう話も。ま、これは別件ですがね。ということで、」

 ジロリと、眼鏡の奥の男性の目線が鋭くなる。


「まさかとは思いますが、ゾンビ―を使役する術など――、つまり死霊術師(ネクロマンサー)がこの病院にいるんじゃないかという調査です。死霊術(ネクロマンシー)が禁術なのは、もちろんご存じでしょう?」


「まあ怖い。うちは病院ですよ、そんな人いるわけないじゃないですか。おほほほほ」


「では、中を確かめさせていただいても?」

「えーっとぉ、でもぉ、ちょっと今、散らかってましてー。お恥ずかしいんですが、片付ける時間はいただけません?」

 もじもじしつつ困った様子で家の奥をちらちら見るレイチェル。頬を染めつつ、上目遣いでお願いをする。

 それを見て、眼鏡男はにやりと何かを確信したように、にやりとした。


「ダメですね、怪しいものを隠されては困りますから」


「えぇぇ、でもぉ」


(ふん、やはり素人だな。この怪しい態度、それでごまかしているつもりか。我々プロの目にかかれば、何かを隠していることなど一目瞭然だ!)

 ここで引くわけにはいかない、証拠を隠されてしまうからだ。

 眼鏡男は踏み込むなら今だと確信し、書類を取り出してレイチェルの鼻先に突きつける。


「それでは、失礼。令状はありますから、拒否するとあなたも捕まりますよ」

「あんっ、ちょっとぉ」

「では私も失礼します」


 眼鏡男はずんずんと奥へ、小柄男もその後ろをついて行く。単に歩いているように見えて、廊下や家具などにも怪しいものがないか、目を光らせながら。


「あのっ!本当に恥ずかしいから、やめてくださいぃぃ」

 レイチェルが後ろを行く小柄男性の腕に、しゃなりともたれかかる。もちろん魔力がたっぷりつまっているものを、腕に押し付けている。柔らかな魔力が形を変えて、男性の腕を挟み込んだ。誘惑は魔術師のたしなみ、魔力の詰まったものを直接体に触れさせることで、誘惑(テンプテーション)の術にかけるのだ!

 魔力は腕から即座に男の脳髄に流れ込み、顔を紅潮させた。

「あ、あのっ、む、むねがっ!」

「あん、失礼しました。思わず。 ……おいやでしたか?」

「い、いえ、別に、大丈夫ですっ」


 そんなこんなを繰り広げているうち、眼鏡男は一番奥の扉を開ける。

「ここだな。がちゃり。 ……なっ、これは!?」

 奥の部屋には、白、ブルー、ピンク。色とりどりの呪符が! いや、よく見ると、それは布製。そう、下着だ! 下着がたっぷりと干してあったのだ。


 ぼっと顔を真っ赤にするレイチェル。これは演技でない、素だ。

 覚悟していても、作戦でも、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


「あーん、だからやめてっていったのにー」


「こ、これを隠していたんですか」

「はいぃ、ひどいですう、あんまり見ないでくださいぃ」

「あ、いえ、これは失敬」


 眼鏡男のほうが真面目なようだ。目のやり場に困った様子で、視線は床を泳いでいた。

 対する小柄男は、ぽかんと大口をあけたままで、部屋の様子を眺めている。


 空気を換えようとして、眼鏡男は言った。

「いや、まだだ。そうだ、ゾンビだ。鍛冶をするゾンビがいるとか。ここの病院の近くに、工房がありますか?」

「ああ、もしかしてマリアさんのことですね。工房はすぐ隣ですよ、会ってみます?」


 マリアに関しては、本人を隠して替え玉を用意する方が簡単かもしれない。しかしそれは一時しのぎだ。

 マリアはこれからもここで暮らしていく。ならば、あえてここは姿を見せ、疑いを晴らす作戦を立てるべきだ。それが二人の結論だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ