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DEEP DARK BLUE

 ドラゴンが私の上へと落ちてくる。

 獣らしくなりふり構わない、巨体による不格好な体当たりだ。牙を突き立てる意志はあるのか、こちらを向いて必死の威嚇を繰り返す。


 私は体中にありったけのマナを巡らせると、愛刀モモフクを構えた。

 真正面から、ドラゴンを受け止める。


「ぐっ、――はあああっ!」

 気合とともに、モモフクを強引に振りぬいた。

 ドラゴンはうめき声も立てず、そのままぐったりと横たわる。上下する腹の肉が、かろうじて息があることを示していた。


「はあ、はあ、…くそったれですね、まったく。さすがに疲れました……」


 深呼吸して息を整える。

 まったく、暑い。川でもあればいいのに。


 そのとき、ぶろろろーという聞きなれない音がした。

 風邪を引いた馬のいななきかと思ったが、近づいてくるのは妙な車のみ。馬に引かれていないということは、何か特殊な魔道具(マジックアイテム)なのだろう。

 道が途切れているところで車は止まり、中から一人の男が降りてきた。こちらへと無造作に歩いてくる。


 おそらくはここらの住人なのだろうが、敵の可能性もある。魔力は感じなかったが、最低限の警戒はしておく。


「あー、お前は、誰だ? 言葉はわかるか?」


 ぼさぼさの金髪をかきあげると、それに似合わぬ鮮やかな(ブルー)の瞳が見えた。

 汚れたシャツから伸びる太い腕。粗野な話し方。田舎者だと感じた。

 私は少しだけ警戒度を下げる。どうやら、本当にただの住人のようだ。


「……ええ、あなたは誰ですか?」

「イングウェイだ。イングウェイ・リヒテンシュタイン。お前は?」

「……チュルージョと言います。この竜を追ってやってきたのですが、帰り道が分からなくなって。ここはどこです?」


 そうだ、それこそが重要なのだ。

 とりあえず休めるところは。町はどこにある? なんでもいいから、情報が欲しかった。

 ところが、丁寧に交渉しようとした私に向かって、この男は横面をはたくように言った。


「何様のつもりだ? 同じ名前のくせに、あいつとは大違いだな」


 男は顔をしかめる。

 切り捨ててやろうかという衝動を抑えるのに苦労しつつ、聞き返す。

「あいつ? 誰ですか、それは」

「あいつ? そうだ、俺は誰の事をいっている――」


 男は私の質問には答えず、頭を押さえたままぶつぶつとつぶやき始めた。瞳の(ブルー)がたちまち深く暗く沈んでゆく。

 困惑する。なんだこいつは、電脳(サイバネ)の妄想にでも囚われているのだろうか。

 それとも、転生者の一人だというのだろうか。


「もしかして、私の名に心当たりが?」

 男は焦点の定まらぬ瞳で宙を見つめながら、ふらふらと頭を振る。

「そうだ、俺は5人の仲間と冒険をしていた。サクラ、マリア、レイチェル――」


 ――!!


 男の口にした数人の名前。その中には、私の、サクラの名前が含まれていた。


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