I'm bleeding
「それじゃあ、目を閉じてなさい」
お姉さんは言った。楽しそうな声だった。不安は大きくなるものの、私は黙って目を閉じる。
暗闇の中、こつり、こつりと、石の床に響く足音が大きくなる。がちゃがちゃと、なにか金属がぶつかるような音がする。
足音が止まり、ほんの少しだけの沈黙。
直後、私の首筋に激しい痛みが走った。
「きゃあああっ、いたっ、いたいっ! 何を……」
慌てて振り向こうとするが、体が上手く動かない。肩をすごい力でがっしりと掴まれている。
手足を振り回して必死でもがくけれど、魔女はさらに強い力で私を押さえつけてくる。
私は、魔女が私の首筋を、太い針で突いたのだと思った。
「少しだけ我慢してくれる? すぐ終わるから」
魔女はそう言うと、無慈悲にも私に突き立てた針をぐりぐりと動かす。
「ぎゃああ、やめてやめて、痛い痛い痛い」
口の中に酸っぱい鉄の味が広がった。もうその時には、叫びながら暴れるだけだった。突き飛ばすとか振りほどくなんてことすら意識からは遠く、ただひたすら、痛みから逃げようとしていた。
私は死を強く意識していた。それから逃げようと、必死だった。
キーン
硬く高い金属音が耳を貫く。
さっきまでの痛みは嘘のように引いていた。それどころか、体は軽く、魔力があふれてくる。
思考だけは少しもやがかかったようにはっきりしないものの、大きな問題はない。
「終わったわよ。さ、行ってらっしゃい」
女性は、私に言った。
――終わった? いったい何が終わったのだろう。 行く? どこへ?
わからない。
砂が波にさらわれるように、どんどんと思考が奪われていくようだった。
そもそも私はここで何をしていたのだろうか。
よくわからない。
女性が指さす先には、紫色のもやがあった。
時折白く発光していて、魔力によるものであることは明らかだ。
これは、罠? この女性は、敵なの?
わからないまま、私の足は、吸い込まれるようにもやに向かっていた。




