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C'mon, Make my day


「よーたに、よーかわ、おーこえろー。わたしーの刀は、ぜっこーちょー」


 私は鼻歌を歌いながら、野道を歩いていた。

 カルポス山脈沿いの近道で、私の計算が正しければ、目的地には私のほうが先に着くはずだ。

 細い小さな道だけど、きれいな花も咲いている。お日様ぽかぽか、陽気な日曜日の午後。

 いや、ほんとは今は朝だけど、気分的にはそんな感じなのです。


「あー、お腹すきましたねー。なにか食べましょーか」


 ごそごそと鞄から取り出したのは、一本のバナナ。

 栄養価が高いだけではなく、女が食べれば男が落とせると噂のラッキーアイテム。

 でも私、甘ったるい味って少しだけ苦手なんですよねえ。


 味も触感もあまり好きではないのだけど、恋する乙女は強いのである。

 いえ、恋っていうと大げさだけど、そりゃもちろんイングウェイさんのことは好きだけど、でもほら、まだ付き合ってるとかじゃないし、でも向こうから告白してきたらもちろん受け入れるけど、私からいくのはほら、ね、やっぱりいきなりってなんかもう、段階ってあるじゃないですかー、



 ぐおーん



 遠くで何か吠えるような雄たけびが聞こえる。むむ? なんでしょ、こっちは食事中だというのに。


 もごもご、っとバナナをくわえたままで、声がした方を探す。

 すぐに見つかった。でかかったからだ。

 その声の主は、深紅のドラゴンだった。


 ぼとり。

 音を立て、くわえていたバナナが落ちた。


 うええぇぇっ?

 思考回路はショート寸前ですが、固まっている場合ではなかった。このままでは最後の晩餐がバナナになってしまう。


「どどどらごんっ? うそ、なんでこんなとこにっ!」


 なんでもクソもない。カルポス山脈といえば、ドラゴンの数少ない生息地として有名な場所なのだ。

 もっとも、ただし、珍しいとも聞いている。捕まえるどころか、目撃されることすらまれなはずだ。


 私は慌てつつも冷静に隠れる場所を探す。


 ……ない。ない。ここらへんはだだっ広いのっぱらで、木の一本も立っていない。

 仕方なく背の高めの草に埋もれるように、身をかがめる。

 ドラゴンはこちらに気付いてもいないようで、優雅に空を舞っているが、いつ何時キケンが危なくなるかわからない。

 腰に差したモモフクがこんなに頼りなく感じるのは、久しぶりだった。



 ドラゴンは山脈へとは戻らず、平野の方へと消えていった。うっしゃあ。私は静かに心の中で叫んだ。

 あちらには大きい街道が通っている。

 私はぱんぱんと柏手を打ち、祈った。おばあちゃんから教えてもらったおまじないだ。


「どうか、商人さんあたりが馬でも連れて歩いてますよーに」


 そういえばイングウェイさんが通る道も向こうのはずだけど、あの人なら心配ないだろう。彼がドラゴンごときに負けるなんて考えられない。なんてったって、彼は強くてかっこいいのだ。


 一人旅の寂しさを痛感した私は、旅路を急ぐのだった。

 とりあえず今夜は、野宿は避けたい。近くに村でもあればいいのだけど、ここらへんは私の故郷に負けないくらいの、辺鄙な田舎。都合よく村があるだろうか。


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