Wherever I need you
薄暗い地下室。
女は、壁にかけられた装飾鏡を眺めていた。そこにはイングウェイらが映し出されている。
「まったく、私って何をしているのかしら。せっかく溜めてた力を、こんなところで使っちゃうなんてね」
両手で顔を覆い、髪をかき上げる。ため息を吐く。
身につけている漆黒のローブがしなやかに彼女の体にまとわりつく。
彼女の行使した時間魔術の対価は、膨大な魔力だ。幾多の転生を経験し、イングウェイをはるかに超える魔力をもつ彼女をもってしても、気軽に使えるものではない。
手を伸ばし、テーブルの上のグラスを取る。
薄くなったウイスキーの残りを口に含む。
女はソファに体重を預けると、ゆっくりと瞳を閉じる。
イングウェイを失うわけにはいかない。だが、ずっと付き合っているうちに、彼に駒以上の感情を抱いている自分に気づく。
彼を失うわけにはいかない。それには、いくつもの意味があった。
そして彼女は、そのためには、何人でも犠牲にするつもりだった。
「突き詰めていけば、必要なのは彼と私だけなのだ。
彼だけが必要で、そのために何をささげてもかまわない」
女は言葉に出し、あらためて決意を固める。次へ進むために、自分の心を確認するのだ。




