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119/203

Enter Second Time

 飛び上がった俺の周囲を、突如漆黒のとばりが覆った。

 墨を流し込んだような、魔力による闇だ。

 俺は反射的に魔力を集めようとするが、巨大な得体のしれない力にかき消された。


 頭の中に直接声が聞こえる。


「……ちょっと、……聞こえるかしら?」


 少し低い、女性の声だ。苛立っているような、呆れているような


「なんだ、お前は。一体俺をどうする気だ?」


「……あんた、バカでしょ。道路に脳みそぶちまけた時にでも、拾い忘れてきたのかしら?」


「お前は誰だ、それに脳みそがどうとか、なんの話……」


「このままキャスリーちゃんたちを置いてって、彼女らはどうなるのよ。少しは考えて行動しなさい」


 声だけではなんとも言えない。聞き覚えがあるような、ないような。少なくともキャスリーを知っているようだ。

 しかし、俺に対してこんな言葉遣いをするやつは、そういないと思うのだが。


「まさかこんなところで使うとは思わなかったわ。制限があるんだから、大切に使いなさい」


 待て、と言ったつもりだった。

 声は出なかった。

 急にひどい目まいがして、平衡感覚が失われた。――いや、違う。逆だ。感覚が戻ってきたのだ。

 飛行中のはずの俺は、いつのまにか二本の足で立っていた。

 かがり火の明かり。喧騒。戦場の臭い。


 数秒の後に、俺は把握した。時が戻っていることを。




「くっ、この炎熱のサルーをあっさり追い詰めるとは、貴様何者だ?」


「む、貴様サルーか? なぜここに」


 炎熱のサルーが呪印を組む。その二つ名にふさわしい、高熱の魔法陣が宙に現れる。

 魔法陣は燃え上がりながら、中心に向けて火炎を集中させる。

 サルーがにやりと勝利の笑みを浮かべた。


 すでに阻害(レジスト)は間に合わない。俺はメタ梨花が付いている左手を素早く持ち上げる。

 俺の魔力で速度と強度を増したメタ梨花の白刃が、サルーの胸を貫いた。


「ごほっ、き、きさま、……よくも……」

 それだけ言うと、サルーはばたりと倒れた。

 死んだのだ。



「おい、前を開けろ! 早くどくんだっ!」


 安心するヒマもなく、現れたのはタントゥーロ。

 そして傍にいるのは、ホルスだった。


 タントゥーロは言った。

「状況を説明しろ、一体何があった!」


 しまった。

 同じ展開をなぞることだけは、避けなければ。時間跳躍(タイムリープ)がムダになってしまう。

 時間がない。選択肢も。なにかさっきの未来(ルート)を外せるような、致命的(クリティカル)な手はないのか?


 手段を選んではいられなかった。俺は魔術師殺し(メイジキラー)を抜き、ホルスに向かって走る。


 まさかホルスも、言葉を交わす前に切りかかってくるとは思わなかったようだ。

 まともに戦えばホルスもそこそこ強いはずだが、それでも俺の敵ではない。


 俺はホルスを切りながら言った。

「危ない、皆、この男から離れろ!」


「な、なにを、……イングウェイ、貴様……」


「正体を見せるんだな」

 そう言って、俺は剣から魔力(マナ)をこっそりと流し込む。口封じのためだ。

 このまま何もしゃべらせるわけにはいかない。


 と、ホルスがいきなりすごい力で俺をはねのけた。

 おまけに黒い魔力まで感じる。


 筋骨隆々の体がさらに盛り上がる。

 響くような低い声で、ホルスが言った。


「ぐぬぬ、貴様、なぜ俺が魔族だと分かった!」


 驚いたが、これは好都合だ。

 俺は、ホルスに止めを刺すことに決めた。こんな唐突な展開に合わせて芝居をするよりは、さっさと殺したほうがぼろが出ないだろう。


「なんとなく行動があやしいから、警戒しておいたのさ。くらえー」

「くっ、こんなところで死んでたまるかーっ!」


 どん、ずばっ。

 ホルスはすでに肩に深い傷を負って、動きが鈍っている。倒すのは簡単だった。

 こちらも腕に攻撃を食らいながら、カウンターの形で奴の心臓を突く。


「はあ、はあ、苦しい戦いだった。タントゥーロ様、後はよろしくお願いします。傷が痛むので、俺はここで失礼します」


 それだけ言うと、俺は一目散に逃げだした。


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