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日常の終わりと、狂気への誘い


 その夜。エドワードとキャスリーの三人で、酒を飲んでいたときのことだ。

 いや、キャスリーはあっという間につぶれて寝てしまったから、二人だな。


「いやいや、儂も気を付けてはいるんだ、しかしだな、最近はいろいろうるさい奴が増え過ぎで」

「ああ、わかるぞ、みんな細かいところを気にしすぎなのだ」

「だいたい胸や尻はでっぱっているのだ、たまたま手を伸ばしたら、ぶつかるのは当たり前ではないか。それをセクハラだのなんだの、ぶちぶちと。だいたいお前のようなババアの乳を狙いに行くかというのだ」

「ふむ、触って減るものではないからな。むしろ俺が触ればどんどん増えるぞ」

「はっはっは、イングウェイ殿がうらやましいわい。あのレイチェルとかいうおなごも、なかなかバイーンと立派な魔力を持っているのう」

「バイーンか」

「ばいーんじゃ、ばいーん」


「ん?」

 唐突に頭がひりつくような感覚がして、俺は飲みかけていたグラスを置いた。

 胸ざわめく。酔いのせいではない。


 心配してエドワードが聞いてくる。

「どうしました、イングウェイ殿?」

「いや、何か嫌な感じがしてな」

 立ち上がり、耳を澄ます。目を閉じて、魔力を聴覚に集中させる。遠くで何かが騒いでいるような気がする。

 妙な胸騒ぎがして、俺は天幕の外へ出る。

 風の強い夜だった。夜の闇の中、俺はある方向を向き、目を凝らす。


 その時だった。わずかだが確かに聞こえた。金属音とどなり声だ。

「エドワード、聞こえたか?」

「ああ、もちろんだ」

 さすがと言うべきか、彼の酔いはすでにさめていた。そこにいたのは酔っ払いおやじではなく、一人の屈強な戦士だった。


「俺は先に行く、キャスリーを見ていてくれ。できれば、レイチェルや俺の仲間たちのところへ合流させてやってくれ」

「わかった。すぐに部下をよこす、無理はするな」

「誰に言ってる、俺は賢者イングウェイだぞ」

 軽く笑った俺に、エドワードも笑顔で返す。

「死ぬなよ、イングウェイ殿。君にはぜひとも、娘を貰ってもらわねばならぬからな」

 おい、いつそんな話になった? だいたい転生時期を入れたら、俺のほうがお前より年上なのだぞ。


 エドワードは部下を呼びつけて色々と指示を飛ばす。その様子を見届け、俺もすぐにその場を離れる。


 走りながら、腰のメタ梨花(リカ)に声をかけた。

「おい、戦闘になりそうだ。起きてるか?」

「当たり前ですよ、もともと私は戦闘用ゴーレムですからね。戦わない方が調子が悪くなります」

 それはそれは、頼もしい限りだ。


 ぎゃおーーす。

 風に乗って届く、ドラゴンの叫び。


「妙だな」

「なにがですか?」

 俺のつぶやきに、メタ梨花が反応した。

「ドラゴンさ」

「なぜです? ドラゴンは飛べるし、単独での戦闘力も高い。魔王軍が夜襲に使用しても、不思議ではないでしょう」

 まあ、それは一理あるのだが。

 相手の規模にもよるさ。俺は説明しながら、自分の頭の中を整理していく。


「確かにドラゴンは強力なモンスターだが、相手は王国の正規軍だぞ。ドラゴン殺しの騎士くらい、当然いると考えるのが普通だ」

「実際にインギーさんも、来る途中で一匹殺しましたしねえ」


「だいたい夜襲というのが気に食わん。夜の闇に紛れれば、確かにドラゴンも目立たず飛んでこれるだろうさ。しかし、ブレスは吐くわ咆哮を上げるわ。一度戦い始めたら、目立ってしょうがないだろう」

「ははあ、それは確かに。おまけにこんな中途半端なところを攻めるなんて」

「そうだな、俺なら本陣のど真ん中に降り立ち、一撃与えてすぐに逃げ出す。こんな中途半端な夜襲など、警戒されて逆に次の行動がとりにくくなるだけだ」


「と、言うことは――」

「おとり、か?」

 俺ははたと立ち止まる。

 しまった。


 エドワードの天幕は、連合軍の北西付近にあたる。ドラゴンは、ほぼ真北から襲ってきた。

 このまま応援に行くと、本陣からはさらに離れることになってしまう。


 考えろ、俺が魔王軍ならどうする? ドラゴンを囮に使った目的は?

 ドラゴンに対応する様子を観察し、頭となる存在を探すとするなら。奴らはどこに隠れる?


 俺は空を見上げた。

 はるか上空に、黒い人影が見えた。


 本命は、あれか。


 再度響く、竜の咆哮。微妙に声の高さが違う。

 何匹いるかはわからんが、ドラゴンを放置することもできない。

 腹は決まった。方向を変えて走り出す。


「おっとっと、今度はどこに向かってんですかあ?」

「ホルスのところだ。まずはレイチェルと奴を合流させ、ドラゴンを任せる。あいつは優秀だ、きっと何とかすると思う」


「じゃあ、イングウェイさんは?」

「大将の護衛だな」

「間に合うんですかあ?」

「相手がせっかく目立つところに陣取っているんだ、一直線に向かわせてもらおう」

 空中戦は久しぶりだが、なんとかなるだろう。


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