表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/203

きずだらけのメサイア!


 俺は冷たい棺の中で目を覚ました。ここは、もしかして、ギルドハウスの霊安室か?

 頭がぼーっとするが、なんとか正気のようだ。体を乗っ取られたような感覚も無い。……たぶん。


 横を見ると、いくつかの死体。――死体だと?

 焦ってその顔を見ると、焼け焦げたマリアに顔のとろけたフィッツ。猟奇的な表情でベロを出したレイチェルに。

 こうしてみるとずいぶんひどいことをしてしまった。


「そういえば――!」


 はっと気が付き胸を見ると、胸には手当てをした跡があった。


「気付きましたか」

 背後で声がした。俺はばっと飛び起きて振り向く。

 そこに立っていたのは、シャドウサクラだ。


「傷は私が治療しました」

「貴様っ!」


 攻撃しようと魔力を集める俺を、シャドウサクラは慌てて止める。

「ま、待ってください! 私は敵ではなく、あなたに頼みがあってっ!」


 なんだと? 謎の申し出に俺は話を聞くことにした。どうせこんなところには誰も来ないだろうし。


 シャドウサクラは語った。

「私たちは、昔、ある魔術師に作られたゴーレムの一種です。本来の姿はスライムのように不定形で、武器や道具に化けるのも思いのまま。かつてはドッペルゲンガーと呼ばれていたこともありました。適当に目で見た相手に成り代わり、人間世界に溶け込むのです」

「ドッペル、だと? 魔法生物にしてはずいぶん知能が高いな。それで、あの部屋で鉱石に化けて隠れていた理由は?」

「いえ、隠れていたわけではありません。自身の本来の姿を持たない私たちは、機械と鉱石しかないあの場所では、自然とそういう姿になってしまうのです」


「まあいいだろう。で、俺に頼みというのは?」


「もともと、私たちの体は一つでした。それがあのゾンビの錬金術師が体を切り刻み、5つに分裂してしまったのです。私たちをまた、一つに戻してください」

 ゾンビの錬金術師とは、マリアのことだろう。まあそれはいいとして、

「ちょっと待て。……5体、だと?」


 俺は数える。マリア、フィッツ、レイチェル、サクラ。一人足りない。


「キャスリーという女性に化けた一体だけが、逃げ出しました」

「やはりかっ! マズイ、他の仲間たちが食われてしまう!」

「いえ、食べませんよ。何言ってるんですか、怖いなあ」


「何を言っている、現に内臓を露出しつつ俺たちを襲っていたではないか」

 俺が恨めしそうににらむと、シャドウサクラは言った。

「あれは、あなたたちが攻撃的なことを考えていたからです。外見だって似るんだから、考えだって似るのは当たり前でしょう?」

 どうやらコピーするのは外見だけではなく、考えていることもらしい。

 そういうことなら仕方ない。完全には信用したわけではないが、とりあえず協力することにする。


「あ、でも指の先っぽくらいなら味見させてくださいね」

 可愛らしく言うサクラ。俺は聞こえないふりをした。



 俺たちは霊安室から抜け出すと、酒盛りを続ける皆のところへ走る。

「どうしましょう、サクラさんに化けてたら、たぶん揉めますよねえ?」

 そういいながら俺の姿に化けるモンスター。本当に瓜二つだ。これで魔力の波長まで一緒だったらお手上げだったな。


 俺たちは中庭の陰から、皆の様子を観察する。

 キャスリーが中心となり、皆に酒を注いで回っている。こいつ、全員を酔いつぶす作戦か?

「おい、本当に残り一体だけなんだろうな」

「ああそうだ、俺を信じろ」

 自分と会話をするのがこんなに気持ち悪いとは思わなかった。どうしようもないので、耳をふさいで束縛(バインド)の術を唱える。


「お前は囮になれ」

 そう言って後ろから偽俺を突き飛ばす。

 なにをするっ! 奴が叫ぶが、耳をふさいでいるので聞こえない。


「あ、イングウェイにゃん。どこ行ってたにゃん?」

 見つかった。観念したのか、仁王立ちでキャスリーを指さす。


「おい、そこのキャスリー。お前、偽物だな」

「あらインギー、どうしたんですの? わらわが偽物って、なんの話ですの?」

 キャスリーはきょとんとした顔で偽俺を見る。騙されない。さっきの恨みは返さねばならぬ。


 俺は束縛(バインド)の術を唱えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ