ににんばおり!
次の日、ギルドハウスの庭で、俺はフィッツにけいこをつけていた。
「本当にいいのか? 相手はこんなタイプじゃないと思うんだが」
「いいんだにゃん、苦手を潰すのもいいけど、得意を伸ばすのも大切にゃん。まずはパワー、圧倒的なパワーがあれば、パリイしようとした腕ごと吹き飛ばせるにゃん!」
正しいような正しくないような……。
まあいいか、本人が納得することも大切だからな。
俺は呪文を唱え、巨大ゴーレムを作成する。
『――打ち砕け、お前の命は私が保証しよう
不幸な息子よ、土に還る前にもう一度動き出す
私の仮面を借りて、蠢くがいい
――≪自我を得る土塊≫!」
魔力で作り出した核を中心に、土の塊が集まってヒト型を成す。俺はデザインセンスがないから、ぶかっこうだがな。足より手の方が大きいし、腰回りもやけに太い。
ゴリラ型といってしまうと、ゴリラに失礼か。
しかし、作成者は俺だ。強いぞ。
起き上がったゴーレムは、すぐにフィッツにむけて剛腕を繰り出す。彼女が目指している、圧倒的なパワーってやつだな。
動きが鈍いせいか、ゴーレムの初撃はあっさりとかわされる。カウンターでパンチを繰り出すフィッツだが……。
「うななーっっ!!」
ぽいーん。
なんだあれ、パンチの音ではないな。
あっさり弾かれるフィッツ、めげないフィッツ。再びとびかかり、こんどは蹴り飛ばされる。
ううむ、見ておれん。
「おいフィッツ、ちょっと力を貸してやる」
「大丈夫だにゃー、一人でやらないと意味が――って、うあーんにゃん」
よそ見をしたところに、ゴーレムのチョップが襲い掛かる。
やれやれ。
俺は大勢を崩したフィッツの背後に回り、優しく抱きしめるように体を支える。
「にゃっ、ちょ、イングエー、なにするにゃんっ!
「二人羽織という状態だ。俺の前にいた世界では、先輩が後輩の技術を指導するときに普通に使われていた。気にするな」
「きにするなって、にあんっ、そこはおっぱいにゃん!」
「ぶつぶつ言うな、お前の体には、まだ使いこなせていない魔力がある」
俺はフィッツの胸にたまった魔力を、背後から優しくほぐしてやる。
フィッツは野生で育っただけあり、魔力による肉体操作は天性の物がある。その結果があの素早さと攻撃力の両立なのだが、残念なことに100%自分の力を使い切れているわけではない。フィッツの胸には常に一定以上の魔力をため込むように、ストッパーがかかっている。
俺は、それを野生の生存本能によるものだと推測していた。
野生の中では、戦いで勝ったとしても食べ物が無くて飢えてしまうこともある。野生の勝利とは、戦いではなく、生き残ること。
忘れかけていたが、彼女にはミルメコレオの血が流れている。食べずとも生きていけるように、彼女の胸はラクダのコブの役割を果たしているのだ。
「安心しろ、何かあっても飯くらい俺が食わせてやる」
「そ、それはもしかしてプロポーズかにゃんっ? いけないわイングウェイ、あなたにはサクラやキャスリーが、……ぶにゃあっ、このゴーレム、空気読まないにゃんっ!」
「ほら、油断するな。ちゃんと全身に回る魔力を感じろ」
俺は胸に当てた手に、ぐっと力を込める。フィッツの魔力はなかなか頑固で、強い弾力が手の平をはじき返してくる。
負けじとさらに力を込める。
「あ、あんまり強く握らないでほしいにゃん」
「我慢しろ、力を抜いて俺に体をゆだねろ。お前のためだ」
「ふ、ふにゃあぁ」
フィッツがうまい具合に脱力する。
俺は角度を変え、残った魔力も全身に循環させる。
迫るゴーレム、ふやけるフィッツ。
「今だ、やれ」
「にゃ、にゃあー!」
ばごんっ、どかっ!
弾かれたように俺の腕から抜け出したフィッツは、ゴーレムの剛腕に真正面から向かい、そのまま打ち砕いてしまった。
「ぜ、ぜはー、ぜはー、は、恥ずかしかったにゃん……」
「よくやったな、フィッツ」
「イングウェイ、お前、責任とってもらうからにゃあっ!」
「ん? よくわからんが、かまわんぞ。途中で修行を投げ出すような無責任なことはしない、安心するがいい」




