異界からの呼び声
「なんですの、ここは。ずいぶんぼろっちいですけど、初めて見る雰囲気ですわ」
「そうだねー、マリア連れてきたら喜びそうだけど」
扉の先は、奇妙な部屋だった。
地下なのにガラス窓がいくつも並んでおり、その手前に金属製のテーブルがある。
テーブルにはいくつものボタンやレバーがついており……
「まるでコントロールルームだな。遺跡内を管理していたのか? 動力は――、さすがに来ていないか」
ホコリを手で払いのけるが、書いてある文字はかすれていて読めなかった。
「わかるんですの?」
「ある程度はな。見たことがあるってだけだ」
なぜこんなところに? 俺は顎に手をやり、じっと考えを巡らせる。
キャスリーの使っている銃のように、過去の遺跡から妙な機械が発掘されることはよくあることだ。
もしかしたら今まで発見例がないだけで(もしくは、発見者がわからなかっただけで)、他にもこんな遺跡はあるのかもしれない。
となると、だ。
「キャスリー、この地方に伝わる伝承で、過去の文明についての話を何か知っているか?」
「え? ええ、いくつかありますわよ。昔々私たちの御先祖様は、この地で貧しい暮らしをしていたらしいですけど、突然現れた神様みたいな人達にいろいろな道具を与えてもらって、発展したとかなんとか」
「その神様みたいな人達とやらは、その後どこへ行った?」
「たしか、東の方角へ旅立ったとか」
――東、か。古い遺跡が多くあると聞いているが、今は荒れ果て、魔族の住む地となっていたはずだ。
「でもそんな昔話って、どこにでもあるものじゃないんですか? 私の故郷にもありましたよ?」
まあ、そうだろうな。こういう伝承は珍しい話じゃない。
だが、伝説に語られる武器が実在しないという証拠などない。魔族が実際に俺たちの知らない武器を所持していたら? それが魔法による武器なら、まだいいさ。しかし、科学技術による武器だったとしたら。
情報は力だ。知らないこと自体が、致命的な差になってしまう。
「まあ、考えたところでどうしようもないか」
ため息を吐いた拍子に、コンパネに積もった埃が舞い上がった。
それを見ていたサクラが、笑顔で言った。
「あー、イングウェイさん、また一人で考え込んでますね? みんなで協力すれば、なんとかなりますって!」
うん、そうだな。
しかし、この世界で科学技術に少しでも理解があるのは、俺くらいだろう。
楽観はしない、この世界に存在する古い遺跡。それらに関する可能性については、頭の中に入れておかねば。
「話は終わりですの? さっさとお宝を探すんですのよ!」
「そだねー」
「ああ」
先にはそこそこ広い空間があり、魔術的な道具も多数置かれていた。調べてみたが、アサルセニアで古くから使われている術式と同じものだったり、その派生だったりだ。先ほどの機械類を使用していたものたちと、同一とは思えない。
おそらく、偶然この遺跡を見つけた魔術師が魔術による改造を行い、アジトとして使用していたのだろう。
サクラとキャスリーは財宝と魔術用品を。俺は、機械部分から金属をいくつかいただくことにする。
マリアに渡せば、素材として活用してくれるかもしれないからな。
最後に、封印措置を施し、このダンジョンの処理はすべて終わりだ。
ギルドに戻った俺は、アリサ嬢に当たり障りのない話をしたあと、ギルド長と面会できるか聞いてみた。
例の遺跡の機械部分の報告、そして魔族に関する話を聞くためだ。
残念ながら留守らしいので、出直すことにする。
まったく、俺は楽して暮らしたいだけなのに、どんどん厄介ごとが増えていくものだ。




