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ラスト・ライツ/二度目の転生


 俺の名はイングウェイ。賢者の称号ももらったことがある、大魔術師だ。

 冒険者として活躍した俺たちのパーティーは、世界の平和を脅かす魔王へと戦いを挑んだ。

 魔王が死に際に放った極大魔法にやばいと思った俺は、自分の身を犠牲にして、パーティーを救ったのだった。


 死んだはずの俺は、一面金色に光る空間にいた。

 俺の目の前には、一人の翼が生えた神々しい女性。


 女神は言った。

「私は女神の一人、お仕事は、価値ある魂を転生させることです」


「転生だと?」

 俺は思わずつぶやいていた。

 転生魔法。聞いたことはあるが、はるか昔に失われた技術のはずだった。


「そうです。あなたの暮らしていた世界の外にも、この世には様々な次元や世界が存在します。私のお仕事は、魂の選別。死んだ人の中からインプレッションを与えそうな魂をチョイスして、別世界に転生させているのですよ」


「俺が選ばれるほど上等な生き方をしたとは思えないがな」

「いえいえ、あなた、前の世界でいろんな魔術理論を構築したでしょ? その進歩をそこで止めるのは、次元全体の損失ですからね。違う世界に転生して、その理論をさらに発展させていってもらいたいんですよ」


「なるほど。では、また魔術のある世界に生まれ変わるのか?」

「そこはガチャですね」

「は? ガチャ?」

 突然聞きなれない単語が出てきて、俺は混乱する。


「くじ引きみたいなものですよ。転生させるかどうかは、こちらの裁量。転生先は、運任せ。では転生ガチャ、いってみましょー!」



 最初の神々しさはどこへやら、やけに軽い声で女神は言った。

 とはいえ、魔術の研究が続けられるのはありがたい。

 心残りと言えば、かつての世界の仲間たちだ。


 願わくば、残された仲間たちが無事魔王を倒し、平和な世界を築いていますように。



 そこまで願ったところで、俺の意識も薄れていった。



 ◇◇◇



 転生した先は日本とかいう平和な世界で、俺は工場でいろんな製品を作っていた。


 そんなある日だ。

 引継ぎの時に機械の動きが悪いから見ておいてくれと言われ、言われた通りに行ってみると、センサーの位置が微妙にずれていた。

 金型のスローダウンに関係するところだ。このままだと閉じスピードが変わってくるので、製品にキズが付いてしまう。


 よし、直すか。そう思った俺は、面倒だったので≪透過(シースルー)≫の術を唱え、アクリルの安全カバーに手を伸ばす。

 いちいち機械を止めるなんて面倒くさいからな。


 今思えば、それが失敗だった。


 機械の端に足をかけ、体の半分をカバーの中につっこむ。


 体重をぐっとかけたそのとき、たまたま垂れていた油につるりと足を滑らせ、俺の体は機械の稼働部へと一直線に――



 ◇◇◇



 機械の中に落ちていったはずの俺は、一面金色に光る空間にいた。

 俺の目の前には、一人の翼が生えた神々しい女性。


 あ、これ、なんだか見たことがあるな。


 そうだ。おれはすべてを思い出した。かつて俺が転生したことを、そして、日本でなぜ俺だけが魔法を使えたのかも。


 女神は言った。

「もう、あなた、何やってるんですか。さすがに死に方がお粗末すぎますよ。転生コストだってタダじゃないんですから、あんまり身にならない転生するようなら、次はありませんからね!」


「ちょっと待て、それは俺の責任ではないだろう。勝手に転生させておいて文句を言われても困る。だいたい記憶も中途半端だったぞ、ここでの会話をおぼえていれば、もっと意識して生きられたはずだ」


「しょうがないでしょう、転生なんて超イレギュラーな形で魂を移しているんですよ。記憶の欠落とかない方が珍しいんですから。甘えないでください! だいたいどんな世界でも精いっぱい生きるのが、本当の人間でしょう。まったくもう! ……で、どうします?」


「何がだ?」


「転生ガチャですよ」


「またチャンスをもらえるのか? 当然、続ける。あの日本という国での知識は、かつての世界では絶対に手に入らない特殊なものだ。絶対に役立てて見せる!」


 いいでしょう、と女神は笑った。

「今度こそSSRの人生を送れることを、折っていますよ」

 その言葉を最後に、俺の意識は再び薄れていった。



 ◇◇◇



 暗闇を漂っている感覚があった。その後、急に何かに引っ張られるような感覚。

 カサカサと顔をくすぐるものがあった。土と草の匂いがした。

 ゆっくりと目を開けると、途端にまぶしい光が飛び込んでくる。


 何だ、くすぐったいと思ってたら、草か。


「――ん、草だと?」


 俺は覚醒した。完全に。


 さっきまで俺は、工場内で働いていたはずだ。まいったな、機械にはさまれかけたところまでは覚えているが。それにしたって病院ならまだわかるが、ここは?

 俺がいたのは、緑あふれる草っぱら。空は青く、回りを見回しても、工場どころか電柱一本見えやしない。


 いや、少し先に洋館が見えるな。なかなか立派そうだ。

 しかしどこだここは? まさか、金型に挟まれた拍子に転生でもしたか?


「ちょっと、大丈夫ですの?」


 声を掛けられ振り向くと、そこに立っていたのは金髪の女の子。胸が無いためにまるで体つきは子供だが、なかなかの美人だ。……きっつい吊り目を別にすればだが。


「ええと、こんにちは。あなたは?」


「わたくしはこの先の屋敷に住んでいる、キャスリー・レノンフィールドですわ。急に庭で何か光ったからやってきたら、あなたが倒れていたんですの。何かご存じ?」

「ううむ、さっぱりだ。おそらく転生時のショックだとは思うが」

「てん、せい? 何を言ってるかわかりませんが、自分の名前くらいはわかりますよね?」


「名前か。ちょとマテ茶、名乗る前に確かめたいことがある。――≪水晶精製(クリエイト・ミラー)≫!」


 本来は水晶を使って遠隔視(リモートビューイング)を行う魔法だが、俺が見たいものは、自分の顔だ。


 鏡に映っていたのは、金髪碧眼美形のスマイルだ。白くすべすべの肌、女のような顔立ちだが、意志の強さを奥に秘めた男性。

 これが、今の俺の姿か。若返っているようには見えるが、何度転生してもさして変わらんな。


「俺の名は、イングウェイ。イングウェイ・リヒテンシュタインという。かつては王国最強の賢者と呼ばれていた。魔術なら任せておけ」



 ……あれ?


 キャスリーという女の反応がやけに薄い。ぽかんと口を開けて俺を見ている。

「俺は何か、変なことを言ったか?」


「あなた、もしかして今、魔法を使いませんでした?」

「使ったぞ。魔術なら任せろと言ったではないか。それとももしかして、ここも日本のように、魔法が存在しない世界なのか?」

「あ、いえ、そうではなくて。そういう意味ではなく、男のように見えるのに、なぜ魔法が使用できるんですの?」


 そのときだ、がるるるーと唸り声が聞こえ、大きな多頭の大蛇が現れた。



イングウェイ・リヒテンシュタイン……名のイングウェイは、友人の古城ろっくさんのプロフィール欄に彼の名があり、そこから連想しました。元はミュージシャンのイングウェイ・マルムスティーンからです。

 姓は、友人のふきのとうさんの没ネタノートから。リヒテンシュタインについての記載があり、そこから拝借しました。

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