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最弱転移者、魔法使いの要望により世界の果てを目指す。  作者: 満天丸
第1章「ファスト村」
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村娘の召喚

「アロナ、大丈夫?」


 ふらふらと死んだような顔をしながら、夕焼けに照らされた家路を進むポニーテールの少女の隣を、長い黒髪の少女が心配そうに見つめながら歩いている。彼女の名前はクレイ・ロート。ポニーテールの少女と同棲をしている。

 ポニーテールの少女の名前はウエス=アロナ。

 彼女らはファスト村という、人間界の北西に住んでいる。

 ファスト村は他の土地に比べ気温が低く、人はあまりいない。魔界からは遠いので魔物も少なく、人々はゆったりと暮らしていた。

 そこに一つの大きくも小さくもない家を借りていて、可もなく不可もない。ごく普通の村人として生活している。

 二人は村中にある学校に通っており、二人ともプロの魔法使いになろうと、毎日のように頑張っているのだが。


「なんでこんなに成績が悪いんでしょうか……頑張ってやっているつもりなのに……」


 彼女は学校に通って以来、総合成績において二年連続最下位を達成している。その割には誰よりもやる気があるので、毎日のように教師から仕置きを受けているのだ。

 先程も校庭を50周させられるという体罰じみた仕置きを受け、膝が笑っている。


「それは………とにかく、今日は休むべき。明日は休日だけど、魔法の練習、するんでしょ?」


 クレイがアロナの背中をさすると、アロナは突然ガバッと顔を上げる。


「しますよ!このままじゃ魔法使いどころか主婦にすらなれませんからね!そうと決まれば今日はご飯を食べて寝ましょう!さあ帰りますよ、クレイ!」


 活気付いた様に走り出すアロナ。そんな彼女を見ながら、どこにそこまでの力が湧いてくるのか、と苦笑いしながらクレイも走り出す。

 太陽の光が作り出す夕闇の中に、二人は消えていった。




 翌日、朝から起きていたアロナは朝食を食べ終わってすぐに自室で魔法の練習を始めた。自分の鞄から専用の魔導書を取り出し、どの魔法を使うかを選んでいる。


「ファイアー、ウィンド、アース、サンダー、グラス、ウォーター……基本魔法はともかく、もっとかっこいい、強そうな魔法は……」


 ペラペラとめくっていると、ふと面白そうな魔法を見つける。


「これは……無属性の召喚魔法?」


 そこのページでめくるのを辞めて読み始める。


「ええと、第十五階級の魔法で……イヤイヤ……異世界から人間を召喚できる?とんでもないですね……必要魔力は……女神級!?そんな魔法が使えるわけ……」


 そう言いながらページを再度めくろうとして、手を止める。

 そういえば以前、魔力を測る魔導具が壊れた事があった。あの時、途轍もない魔力量でとても測りきれないとか言われた気がしないでもない。

 もしかしたら使えるかもしれないと、床に敷いた紙に魔法陣を引き始める。まあ流石に使えないだろうし、もし召喚しても、異世界に帰す魔法はこの魔導書に載っているだろう。そんな事を軽く考えながら、アロナは魔法陣を書き終え、魔法陣の前に立つ。


「さてと……ええと、詠唱が妙に長いですね……」


 通常、魔法を使う際には詠唱は必要無い。しかし、上位の魔法には詠唱が必要なものもあると風の噂で聞いた事がある。もしかしたらこれは、そういうものだろうか。

 (そう言えばさっき十五階級魔法だとか書いてあった様な……)

 いやそれはないな、と頭を横に振る。この世界が生まれて以来、第五階級より上位の魔法は未だに開発されていないのだ。多分、第十五階級と書かれていたのも第五階級のミスだろう。そういう事にして、書き終えた魔法陣から体を離す。

 気を取り直してアロナは詠唱を始める。どうせ失敗するだろうと思っていた。それは必要魔力量がとてつもない事と、もう一つ理由があったが。

しかし、アロナはどちらかというと、かっこいい魔法を使いたいのだ。それならば召喚魔法など、格好良さの極みと言えるだろう。物は試し。そういう気持ちで、アロナは魔法を軽はずみに使った。

 そして詠唱を終えた瞬間、部屋中に途轍もない勢いで煙が舞う。

世界の歯車に、新たなものが一つ加わった。




「ぷおっ!」


 おかしな声を出しながら跳ね上がる。突然暗闇に落ちたと思ったら、次の瞬間には気を失い、気を取り戻したと思ったら、吐き出されるように地面へ投げ出されたのだ。


「な、なんだぁ!?え、なに、なんだぁ!」


 自分が置かれている状況を理解出来ずにキョロキョロと周りをみる。確認できるのは、自分がいま紙の床にいる事、そこに妙なモノが書いてある事、そしてあたり一面の煙だ。

 煙を払おうと片手をブンブンと振り回すが、煙が晴れることはない。相当濃いようで、払えど払えどすぐに煙が覆ってしまう。

 どうしようか迷ったが、どうやら自分は人工物の上に座っているようなので、動かないことにする。経緯がどうあれ誰かに連れてこられたのだろうし、そうでなくてもこの煙の中を歩くのは辛い。

 道に迷った時はその場を動くな、とも言われるのだ。せめて煙が晴れるまでは待とう。

 一旦座って誰かがくるのを待とう、そう考えた時――


「あわわわわ何が起こってあああーーっ!!??」

「ゴッファ!!」


 突然煙の中から少女が現れ、ハルオの胸部に見事な頭突きタックルを決めた。

 座りかけの不安定なポーズの時にタックルをかまされ、そのまま後ろに倒れてしまう。後頭部が床にぶつかる音がして、意識が一瞬飛ぶ。

 パチパチと弾ける視界が晴れていき、自分の状況を確認する。

 目の前には少女。少女は自分に覆いかぶさっていて、例えるなら今まさに押し倒されそうだ。

 少女は慌てたように真っ赤な顔をしてぐるぐると目を回している。

 そんな中、ハルオの第一声は――


「ち……痴女……」

「違いますよ!違うんです!ええと、そのですね……」


 痴女扱いされ、さらに焦ったアロナは体勢を直す事も忘れ弁解をしようとした。瞬間、後ろのドアが開き、黒髪の少女―クレイ―が現れた。


「アロナ、今の音は………」

「あっ」

「えっ」


 部屋の中の状況を見た瞬間、クレイはガチンとロックがかかったように固まる。

 アロナとハルオの二人も、どちらが出したともわからない音を出して固まる。

 そのまま10秒ほどの沈黙があり、アロナがさらなる弁解をしようとした瞬間――


「アロナに男ができるなんて……ごめんね、お邪魔しちゃって」


 パタンと閉じられたドアに向かってアロナが走り出すのに、1秒もかからなかった。




「――つまりここは異世界で、俺は召喚された訳か……」


 その後アロナの必死の弁解によって事なきを得た三人は、キッチンのテーブルにてアロナの状況説明を受けていた。

 どうしても要領を得ないアロナの説明に理解を苦しめられたハルオだったが、クレイの的確な翻訳によってようやく理解する事ができたのだった。

 頬杖を付いたままこくこくと頷くアロナの方を見た後、今度は一度だけ頷くクレイを見て、ハルオはそれを確信する。


「いやー、まさか本当に成功するとは思いませんでしたよ!どうです、クレイ、凄いでしょう?」

「アロナの召喚魔法で死なないなんて、あなたはとても運がよかった」

「おい、どういう事だよ」


 ハルオの問い掛けに、アロナはバッと顔を逸らし、クレイも目を逸らす。

 どうも質問に答える気は無いようだ。ハルオはため息を吐くと、頬杖を解除してアロナを正面から見る。


「ま、いい。取り敢えず俺を帰してくれ」

「へ?」


 素っ頓狂な声を出して顔を傾けるアロナに、ハルオは怪訝な顔をして説明をする。


「元の世界にだよ。異世界から召喚する魔法があるなら、帰す魔法……返還魔法とか、あるだろ?」


 勿論、ハルオにも気になる事はいくつもある。特に暗闇に引き摺り込まれる直前に聞いた声に関しては、未だ脳裏から離れない。

 しかし、ハルオにも元の世界における社会的地位があるのだ。いくら向こうの世界がつまらなくても、両親も親族もいる。クラスメイトだって、多少の心配はするだろう。

 それならばここで即急に返して貰うべきだろう。今この間も向こうにハルオはいない訳で、帰ってこないハルオに両親は心配しているかもしれない。


「あっ……え、ええ、そうですね。分かりました、ちょっと待ってください」


 アロナは少しハッとしたような顔をすると、説明のために持ってきていた魔導書をペラペラとめくり始める。魔導書って本当に魔導書みたいな感じの装飾なんだな、などと考えながらお茶を啜る。

 ふと、テーブルを挟み左斜め前にいたクレイが頭を下げる。


「本当にごめんなさい、えぇと」

「ツムギハルオ。ツムギが姓でハルオが名。ハルオでいいよ。まあ、俺も珍しい体験が出来たからな。そんな気に病むことも無いよ」


 そう言えば言葉は通じるんだな、と考えていると、クレイはもう一度頭を下げ、アロナの方を向く。


「それで、見つかった?」


 そう語りかけると、先程からずっと魔導書と睨めっこを続けていたアロナがパタンと魔道書を閉じ、赤い薔薇ですら青くなりそうな程青ざめた顔をする。


「どうした、大丈夫か?」


 カタカタと震えばかりのアロナを見て、ハルオが心配そうに話しかけると、アロナは目を回しながらハルオの方を向く。


「み……見つかりません……」

「……………は?」


第二話、まずは召喚部分です。

このゴタゴタはもう少し続くかも……

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